経営理念のつくり方をもう一度、振り返ってみよう 経営理念のつくり方のまとめ

経営理念 = management principle = 経営の原理原則、主義、根本方針
経営理念 = management philosophy = 経営哲学、経営観

経営理念の目的をハッキリさせることが大切。人間性、社会性、経済性の追求。利己ではなく利他。なぜ、なに、どう。自分の生まれ育ちを知る・・・などなどたくさんありました。

ここで実際に自分で経営理念をつくるステージに来ましたから、もう一度、根本の根本に戻って「経営理念とは何か?」をハッキリさせておきましょう。経営理念とは、「経営の原理原則、主義、根本方針」「経営哲学」「経営観」です。誰に話しても恥ずかしくない「私はこう強く思っている」ということです。そのことを一番の原点として経営理念をつくる、と今、決意してください。

そして、経営理念の作成に100%正解のものはない、人それぞれの人生が違うように経営理念もそれぞれ違う、間違っていたらまた直せばいいと、ちょっと開き直ってやり始めてみてください。大丈夫です。安心してください。死にはしません。

お手元に紙とペンンは用意できましたか?(実際に今、書くことが大切です)では、いってみましょう。

(1)経営の目的
経営理念の一番上に書くこと、つまり経営の目的は「社員を幸せにすること」と「仕事を通じて社会に貢献すること」でした。自分だけが金持ちになればいい、という利己を少なくすることが結果的に経営をよくすることになるからです。少し丁寧に書くとこうなります経営理念「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」これが一つ目です。

(2)事業領域
もう少し、具体的な事業領域、つまりどんなことをするのかをあらわす言葉を入れるポイントはこれです。「~で人を幸せに、~で世のなかに貢献する」つまり、「ITで人を幸せに」「食を通じて世のなかに貢献する」という項目を入れることです。自分の会社の事業内容、仕事内容を入れます。ものつくりを通じて、不動産を通じて、自動車の販売を通じて、広告を通じて・・・となります。変えることのない事業領域といえるのかもしれません。

(3)使命観(ミッション)
~のために、~する (誰かのために、ある目的のために、~をする)という考え方です。これは前の項の事業領域をさすこともあれば、社会においてはたす役割や会社が社員に対して果たす役割をさすこともあります。Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることです。

リンナイ企業使命観:リンナイは『熱』を通じて『快適な暮らし』を社会に提供します。
久光製薬企業使命:「貼る治療文化を世界へ」それぞれ素晴らしい考え方です。

でも、われわれ凡人にはすぐにこういったいい言葉は浮かびません。だから、ここでいくつかの経営理念の例を本かWEBで検索して探すことです。

(4)経営理念の例を10社ほど探してください
図書館に行って経営理念の本を借りるか、WEBで「自分の業界名 企業 使命」で検索してみてください。自分の業界名とは、製造、不動産、自動車販売などです。つまり、「製造 企業 使命」や、もっと絞り込んで「自動車部品 企業 使命」といった方法で検索してみることです。または、「経営理念ドットコム」で検索すると、1600社以上の経営理念を集めたサイトがあります。

自分の事業内容に近い企業の経営理念の例をその一覧から探すということもできます。その中から「これ、いい!」「その通り!」と思えるものを2~3書き出します。これで、使命の候補ができあがります。

(5)ビジョン(将来像)
これは「~でNO1(ナンバーワン)になる」と、一度決めてみてください。自動車の製造でNO1(ナンバーワン)になる、としてしまうとトヨタさんには到底勝てませんから、そこまで大きなものにしないことです。

まずは、「地域NO1(ナンバーワン)宣言」が一番妥当です。日本一では大きすぎますので、県でNO1(ナンバーワン)を目指す。
それが難しいようなら、市でNO1(ナンバーワン)。
それも難しいようなら、区でNO1(ナンバーワン)というように、まずはできるところから小さく絞ってNO1(ナンバーワン)を目指すことです。

これなら誰にでもできます。「地域NO1(ナンバーワン)」があれはまらなければ「業界」や「~の商品」でNO1(ナンバーワン)にすればいいのです。弱者が強者に勝つ最強のルールである、ランチェスター戦略の鉄則です。小さなNO1(ナンバーワン)を目指す。そして、だんだんと大きなNO1(ナンバーワン)つまり、日本一を目指していけばいいのです。

(6)バリュー(価値観)
この価値観、そして判断基準の中に社是、社訓、信条などが含まれるといっていいのです。総括すれば、すべてが価値観だからです。しかし、これをつくるのがとても大変なのです。多くの人がここで躓きます。はじめはなにを書いたらいいかがわからない。少しわかるとあれもこれも入れたくなる、というものです。

これこそ他社の経営理念で「これ、いい!」「同感!」と思ったことをそのまま、マルッとマネしてください。いろいろ変えようとするとできなくなります。いいものはマネをすればいいのです。間違っていたら直せばいいのです。「それ、いいね!」「あっ、そっちもいいね~」というお調子者っていますよね。「いい加減な奴だな~」と思われる感じの人。あの人のようないい加減さでいったん、「自分がいいと思った価値観」を決めてください。

日本人はマジメすぎるので、そのくらいでいいのだと思います。真剣に考え過ぎて決まらないより、立ち止まらないこと。間違っていてもいいから、一歩でも進むことを優先してみてください。
大丈夫です。何度も言いますが、死にはしませんので。

経営理念づくりはマネから入る

経営理念とは何か、どう大切なのかがわかったとしても、つくるのが大変だと思っている人が大半です。または、つくり始めたが途中でやめたという人が多いのです。「大切だよな~、つくらないとな~」と時間が経ってしまうより、100点でないにしても一度つくってしまうことをおすすめします。そのときのポイントは、「自分で全部つくらずにマネる」ということです。

始めから自分で全部つくろうとするからできないのです。そういうときはマネればいいのです。「えっ、そんなのでいいの?」と思われるかもしれませんが、いいんです。ないよりはずっとましです。昔、松下電器産業(現・パナソニック)は「マネした電器」と言われたくらいです。気にせずマネしてください。本当にマネでもいいのかと、どこかに少し後ろめたさのようなものがあるかもしれません。しかし、そのことはあまり気にしなくてもいいと思います。

たとえ始めはマネしただけの経営理念であっても、毎日、そう「思い」その「言葉」を口に出していると、そういう「行動」になり「結果」が出てきます。もちろん、マネる経営理念は自分がいいなと思う、共感できる言葉でなければなりません。自分が共感できる言葉であれば、毎日「思い」、「言葉」にするうちに徐々に自分の言葉となってきます。

もともと、人間は言葉を覚えるときにもマネることから始まります。赤ちゃんもそうです。また、大人になって日本語以外の外国語を身につけようとするときには、まずマネることです。外国語を習うときには、始めは意味がわからなくてもいいのです。意味をあまり考えずにとにかく聞き、話し「言葉」にすることが大切です。

これと同じことが経営理念にもいえるのです。始めはただのものマネかもしれませんが、「言葉」にするうちにしっくりしてきます。もし、しっくりこない、なんとなく違うと思うならばその経営理念を変えればいいのです。その言葉をやめるでもいいですし、修正して使うのでもいいのです。

それは、マネして話し続け、使い続けて初めてわかるものです。しかし、いつまでもマネした経営理念だけではいけませんので、自分なりに考え、少しずつ直していってください。はじめはマネで構わないから、フォーマットに沿って経営理念を書いてみよう!

経営理念には「社長の決意」を書く

経営理念をつくるうえで非常に大切であるにもかかわらず、どの本にも書いていないことがあります。それは、「社長の決意」を書くことです。大切なことなので書いておきます。経営理念の手帳をつくるなら、その中に入れておいていただきたい内容です。たとえば、このようなものです。

社長である○○○○(自分の名前)は社員の皆さんに対し、以下の約束を守ることを誓います。この約束を破ったら、社長を辞めます。

【社長の約束】
私は命をかけてこの会社と社員の皆さんを守ります。
社員の皆さんが物心両面の幸福の追求ができるように、経営理念を高め続けます。
社員を守るために、率先垂範します。
社員を守るために、社内の誰よりも働きます、努力します。
最低でも1日12時間*週6日、年間3500時間以上働きます。
社員を守るために経常利益率10%以上にします。
業界を、日本を、代表する会社になります。
両親や友人に胸を張って話せる会社にします。
人として正しいことを経営の判断基準にします。
会社を人間的成長の場とし、立派な日本人を育てます。
100年後の日本人に感謝され、尊敬される会社にします。
会社の物、お金をいっさい私用に使いません。
あさ、絶対に遅刻をしません(朝は始業1時間以上前に出社します)。
会社のためにならない夜のおつき合いやゴルフはしません。
判断力を鈍らせないために、夜22時以降はお酒を飲みません。

きついですね。この内容を書いて社内に貼りだせる経営者は100人に1人もいないかもしれません。でも、どれか一つでも自分自身の決意として宣言し、実行できると会社のレベルは確実に上がります。私が保証します

経営理念作成の3つの段階

経営理念のでき上がりイメージを3つの段階に分けてみたいと思います。

(1)A4の紙1枚の経営理念
(2)A4の紙2~10枚程度の経営理念(ファイルになったもの)
(3)手帳(50~100ページのもの)

一番始めは、(1)A4の紙1枚の経営理念をつくることです。始めから気合を入れて、分厚い100ページもあるような経営理念((3)手帳)をつくろうとするとうまくいきません。そこにはいくつかの壁があります。

・まず、時間がかかります。つくり始めてから1年かかるイメージです。
・人出もかかります。プロジェクトチームをつくって、本業のパワーが割かれます。
・お金もかかります。自社でやるならまだしも外部に発注すると300万~1000万円、高いものだと5000万円くらいかかります。

売上が1000億円を超える大企業なら5000万円払うこともあるかもしれません。しかし、売上100億円くらいまでの中堅企業なら外部に丸投げするのではなく、まず、社内で検討することが大切です。ましてや、日本の企業の90%を占める売上10億円以下の企業であれば、数百万円も使ってデザイナーを使ったこぎれいな冊子をつくるよりも、経営理念の本質である「思い」の部分に注力することをすすめます。

でき上がりは、(1)紙1枚 ⇒ (2)紙2~10枚 ⇒ (3)手帳(50~100ページ)と増やしていくイメージがいいと思います。(1)紙1枚を1週間程度でつくり、数か月~1年使ってみる、使いながら足したい言葉が出たら追加し、そのつど修正していく。

書き足したいことがたくさん出てきたらその言葉を別のノートに書きとめておいて、ある分量がたまったら、次のステージである(2)紙2~10枚へと進む。同じように追加したい考え方を書きとめておいて、さらに(3)手帳(50~100ページ)へと進化させてゆくのが確実に進んでいく方法です。

経営理念は社長の「思い」「思考」をはっきりさせる必要があるので、1日ではできません。ちょうどワインが熟成するように、経営者の「思考」も時間をかけて熟成されます。20代で会社を起こした経営者が、30代になってもまったく同じ「考え」であるはずがないのです。

自分が年齢を重ね、社会経験を積むことで「考え方」も変わり、人格も変わるはずです。そして、会社の内容や規模も変わっていくでしょう。一番の根本となる「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する」という部分は変わらないにしても、事業の領域や、提供するサービスも変化するかもしれません。

経営理念は変えてもいいものなのです。変わっていくべきものなのです。そう考え、自分のペースで自分の人生を歩くように、自分のペースで経営理念をつくっていってください。(1)紙1枚で1年やり、2年目に(2)紙2~10枚つくり、そのうえで(3)手帳(50~100ページ)を3年目以降につくるというスケジュール感でちょうどいいかもしれません。あまり急がずに、でも着実に、経営をするのと同じように進んでいってください。

経営理念と企業理念は違うのか?

【質問】経営理念と企業理念は違うのですか?

これも多くの人に聞かれた質問です。
答えは、「似たものです。でも、厳密にいうと違います」といえます。「経営理念は社長が思う経営についての理念」「企業理念は全社員が持つ企業としての理念」といえます。つまり、経営理念は社長が思うもの、経営の考え方、企業理念は社長だけでなく、もう少し広く全社員が持つ考え方といえます。

したがって、企業理念は「社風」に近い感じになってくるものともいえます。しかし、現実は「経営理念」も「企業理念」もほとんど同じ意味で使われているといっていいと思います。それはちょうど、「彼はおもむろにタバコを取り出した」という言葉の解釈が、「ゆっくりと」と解釈するのか、突然にと解釈するのか、ある意味どちらとも正しいと言えるようなものかもしれません。もともとの意味はAであっても、Bという意味で使う人が多くなれば、その言葉はBという意味になっていくのです。言葉の意味は時代とともに変化します。

20世紀の現代に日本で「いとおかし」と言う人はあまりいません。しかし、平安時代は「とても趣がある」という意味でたしかに使われていたということです。ここまで極端ではないにしても、言葉の意味は変化する、そして、人によって解釈の仕方に違いがあることを前提にしておくことも大切です。それよりもここで大切なことは、一般的に使われる経営理念という言葉が誤解される可能性があるので、注意する必要があるということです。

経営理念という言葉は受け取り方によっては、経営者が考える理念であって、社員の考えではないと思われることがあります。会社からの一方的な押しつけのように思われないようにしないといけません。もちろん、本来は経営者が経営についての根本的な考え方を表わしたものが経営理念です。ビクビクしながら「ウチの経営理念はこうなんだけど......」と社員にお伺いを立てるようなものではありません。

しかし、社是、社訓が「わが社の社員は~すべし!」「わが社の社員は~すべし!」と、たくさんの「べし! べし! 攻撃」をされても社員もいい気はしません。「社長こそ、ちゃんとやってくださいよ」と言われて終わりということになりかねません。「それは社長が言っている経営理念でしょ」と思われてしまいます。そうではなく、社員全員が素直に心から思えるものであってほしいのです。

「私たちの会社はこういう会社だ」
「こんな考えで仕事をしている」
「こういうところを誇りに思っている」

社員の誰に聞いても同じように気持ちよく答えてくれる状態になることが大切です。それが本来の企業理念という言葉なのかもしれません。経営理念と企業理念は言葉の意味が違うことろからスタートしたとしても、いまはほぼ同じ意味で使われているといえるでしょう。それよりも、あまり上から目線の経営者の目線からだけの経営理念でないようにしてみてください。

企業経営では、労使関係という言葉にあるように、使う側と使われる側には埋めがたい深い溝があり、対立するものという考え方が長い歴史上あります。「社員に社長の考えがわかるはずがない」「社長はうまいこと言って社員をこき使おうとしている」とお互いに思っているのです。そして、多くの社長は、「どうすれば社員はついてきてくれるのだろうか?」と疑問に思い迷っています。

その疑問と迷いに対する答えが経営理念にあります。社長が自分だけよければいいという利己を減らし、社員のために経営をすると誓い、経営理念で利他を約束する。そして、お互いにパートナーのような関係になれるミニ経営者、松下幸之助の言う「社員稼業」をする自立した人材が育つように、経営理念の中に経営に必要な判断基準、考え方を入れる。

その経営思想、経営理念が全社で共有されれば、会社の中に経営感覚を持つ人材が増えてゆくのです。例えば、経営感覚を持つミニ経営者が会社の中で半分以上になれば、経営の内容はガラッと変わります。「命令したからやる」、「来いといえばついてくる」という主従関係を越えて、自分の部門を自立的にマネジメントするミニ経営者を育ててゆくのが経営理念だといえます。

社長があれこれ細かい指示を出し続ける経営から、社員が自分で判断する自立的経営へと、考え方を伝えるものが経営理念なのです。その経営をする考え方、つまり経営理念が社員の多くに伝わり、企業全体の考え方となったら企業理念と言えるのかもしれません。

経営理念づくりは「5W2H」で考えるとうまくいく

「いつ」「どこ」「誰」「何」「どう」「なぜ」「いくら」という視点で経営理念を整理してみる

5W2Hの視点5W2Hとは、「いつ」「どこ」「誰」「何」「どう」「なぜ」「いくら」です。経営理念をつくるときに、この5W2Hの視点で考えることができます。つまり、次のことが経営理念をつくるポイントになります。

(1)「いつ」つくるのか?
(2)「どこで」つくるのか?
(3)「誰が」つくるのか?
(4)「どう」つくるのか?
(5)「なぜ」つくるのか?
(6)「いくらで」つくるのか?

一つひとつ考えていきましょう。

(1)「いつ」つくるのか?
ある調査によると、経営理念をつくった時期は、創業時が40%、創業5年以内が19%、6~10年が12%、11~20年が10%、20年超が15%となっています。つまり、創業時に経営理念をつくる経営者が40%ということは、半分以下の経営者しか創業時に経営理念をつくらない、またはつくれないということを表わしています。

創業時には、まずは食べることが優先、売上を上げることが大切となっても仕方がない面もあるといえるのでしょうしかし、時間の経過とともに経営理念について考え、6~10年経てば70%を超える経営者が経営理念をまとめています。また、何度もお話しているように、本人が経営理念と自覚をしていないものでも毎日の判断基準の中には、経営者の理念、考え方が反映されているものです。

つまり、経営理念は明文化されていなくても、社長の心の中には存在しています。それが形としてつくり上げられる一つの目安の時期が、6~10年といえるようです。また、創業者がつくった経営理念を2代目3代目が変えることも当然あります。2代目として会社に入り、2年で社長になる場合と、10年かけて社長になる場合でも経営理念の変え方は違ってきそうです。

とくに自分が働き出してまだ短い期間では、社員の考え方や行動がよくわからないでしょうから、経営理念を変えようとするときには注意が必要です。

(2)「どこ」でつくるのか?
ここでいう「どこ」は、「どこの部門」となるかと思います。一般的には社長直轄の経営企画室や総務部などになるかと思います。会社の組織によってケースバイケースで変わってくるものです。

(3)「誰」がつくるのか?
経営理念をつくるのは社長です。これは間違いのないことです。でも、社長だけがつくるのでは社員はその経営理念を受け入れづらいので、社員と一緒につくることが必要になります。社長が主導であることは大切ですし、そうでなければならないのですが、社長が一人で全部つくりあげたとすると、それは社長の考え方ではあるが、私たち社員はそう思っていないとなります。反発されると同時に、勝手に社長が言っているとあきれられる感じです。

「いや、違う。経営理念とは社長がすべてつくるものだ」という会社ももちろんあります。それが理想的な形です。しかし理念をすべてつくることができる社長ばかりではありませんのでケースバイケースで考えてください。社長が主導する場合には大まかには、社長が骨子をつくり、社員と対話しながらつくり込むイメージです。一番の基本となる部分は社長が決めます。

「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する」
「わが社は○○な人のために○○の領域で事業を行なう」
「創業の精神は○○」という部分は、社長でないと決められないものです。

一方、「最高のサービスを提供する」という項目を入れるなら、より現場に近い事例を入れて表現するほうがよくなります。そういった場合は、社長がすべてをつくり込むより現場の社員の人の意見を聞き、現場の人がわかりやすい表現で伝えていくことが大切になります。

比率としては、社長が作る部分が60%~80%、社員がつくる部分が40%~20%くらいでしょうか。この比率は決まっているものではなく、社長の思いや、社長の性格にもよるものだと思います。社長が大枠を決めて後は社員のみんなに任せるよ、というタイプならば、社長:社員=60:40くらいでしょう。でも、社長が経営理念に対する思いが強く、いろいろと伝えたいというタイプなら、社長の比率が高くなり、社長:社員=80:20くらいになるかもしれません。

(4)「何」をつくるのか?
何をつくるとなると、どれも経営理念と呼べるたくさんの言葉があります。経営理念、社是、社訓、信条、モットー、スローガン、クレド、ウェイ、ミッション、ビジョン、バリュー、原理原則、哲学、基本方針、個別方針、創業の精神......などなど。ここの言葉選びは、初めて経営理念をつくる人が大変悩むところでもあります。どれもいい気もするし、どれも良くない気もする......。人がたくさん集まれば、1日議論していられるのではないでしょうか?

しかし、言葉の定義や考え方の違いだけに時間を使うのはちょっともったいない気がします。それよりも、経営理念の考え方そのものへ議論の時間を使ってもらいたいと思います。どうしても大人数で話し始めると、話がいろいろな方向に飛んでしまいます。

「信条とクレドは同じなのか?」
「クレドのほうがかっこいいでしょ」
「クレドとウェイはどう違うんだ?」
「トヨタウェイとはいうが、トヨタクレドとは聞いたことないぞ」
「トヨタバリューってあるのか?」

このように、ある人だけ盛り上がるか、イヤになっちゃうか......ではダメなのです。このへんの言葉の選択は、社長がさっと決めてしまったほうがいいでしょう。ある意味ではどの言葉も正しいのです。いったん、いちばん納得しやすいものから始めてみて途中で修正すればいいと思います。

たとえば、『京セラフィロソフィ』(サンマーク出版)という本があります。これを同じように『鈴木商事(自社の名前)フィロソフィ』として、自社の経営に対する哲学として箇条書きでまとめてゆくのも一つの方法です。つまり、初めはどの言葉でもいいのです。つくる過程が数か月あるのですから、その間に変えていけばいいのです。

例(1) 信条 → 信条を羅列する(クレドのほうがカッコいいと思うならクレドにする)
例(2) 基本理念 → 1.2.3......と考え方を箇条書きにする
例(3) ミッション、ビジョン、バリュー → 使命感、将来像、価値観の3つにまとめる
例(4) フィロソフィ → 羅列する、大家族主義で経営するなど
例(5) 私たちが大切にする考え方 → 1.2.3......とわかりやすい表現にする
例(6) わが社の哲学 → (例)京セラフィロソフィ=○○フィロソフィ(わが社の哲学よりフィロソフィがカッコいい、納得がいくと思えばフィロソフィにする)

(5)「どう」つくるのか?
社長が直轄するプロジェクトチームをつくることが必要になります。「誰」がつくるのか?とも関係しますが、社内での人選も大切です。社長が指名する方法もありますし、社内から公募する方法もあります。一つの例としては、部門と年齢をマトリックスにする方法があります。

具体的には、総務・人事部門から一人、営業部門から一人、製造部門から一人、物流部門から一人、開発部門から一人、というようにいくつかの部門を横断します。こうすることで、部門ごとの意見が聞けます。同じように、年齢も20代、30代、40代、50代と各年齢層に一人ずつは入れたいところです。将来の幹部候補を入れる考え方もあれば、ちょっと最近さえない......という人を入れることもあるかもしれません。

実際には、経営理念という文章をつくることになりますので、ただしゃべるのが得意という人だけでもいけませんし、文章を書くのが苦手な人だけでもうまくいきません。人と人との組み合わせを考えたうえで、社長と幹部で人選されてください。作成プロセスとしては、次のようなことを覚えておきましょう。

経営理念をたくさん読む(集める)
いいと思うものを選ぶ
マネする
修正する
自社のものとする

経営理念は変えてもいいのか?

【質問】経営理念は変えてもいいでしょうか?

こう聞かれたら、あなたは何と答えるでしょうか?

「先代の社長の経営理念があるのですが、私が社長になって経営理念を変えていいものかどうか悩んでいます」「去年、経営理念をつくったのですが、どうもしっくりこなくて経営理念をつくりなおそうかと思っているのですが......」このような人によくお会いします。

答えは、「経営理念は変えてもいい」です。理由は、社長が交代すれば社長の人格も変わるので、当然、経営理念=考え方、信念が変わるからです。しかし、自社の経営理念の最も根本的な部分については変えないでください。たとえば、「社員を幸せにし、社会に貢献する」という経営をするうえでの根本の部分は変えないようにする。また、「この事業(食品業)を通じて○○する」といった事業の根幹の部分は不変かと思います。

一方では、経営理念を変えたほうがいい場合も多いはずです。たとえば、経営理念の中の社是が3つあるが2つ追加して5つにしたい、創業の精神を書きたしたい、ここの部分はなくしたい、「~で~すべし」を「~で~しよう」に変えたいなどはあってしかるべきです。ですから、経営理念の中で変えたほうがいいものは変える勇気をもって変えていってください。

経営理念を深く考え始めると、あれも足したいこれも足したいとなるはずです。いや、これでは言っていることに整合性が取れないのでこれは削ろうと、修正したくもなります。それでいいのだと思います。そういった文章を練り直すことに意味があるのです。

論文を書いた後に文章を推敲するのと同じように、経営理念を書いた後に経営理念を推敲するのです。何度も書いては直し、書いては直す。そのことによってはじめて経営理念に厚みが出ます。1日でちょろっとつくろうというのでは、ちょっと虫がよすぎるのかもしれません。たしかに1日でつくり上げるという方法もあります。

いつまでも考えていては前に進みませんから、まず、つくり上げる。これは大切なことです。しかし、それだけで終わってはいけません。それでは、自分のものになっていないからです。一度つくり上げたとしても、そのつくった経営理念を何度も何度も口に出してみる。口に出してみると、なんとなくこの言葉はおかしいとか、しっくりこないという部分があるものです。そういった部分を加筆・修正しながらよりよいものにしていってください。

経営理念をつくる人の文章力やもともとの信念にもよりますが、平均でも30~50回は修正することになるのではないでしょうか?多い人だと100回以上直したという人もいるようです。こうなると、「経営理念は変えてもいいのか?」というより、「何度変えたら本当の自分の経営理念になるのか?」という質問のほうが正しい問いといえるのかもしれません。

寝ても覚めても経営理念のことを考えている、集中して考える期間が3か月。その後、つくり込むのに1年。修正しながらバージョンアップして社内に浸透させてゆくのに3年はかかると思っておくくらいで、ちょうどいいかと思います。

経営理念の3つのレベル

経営理念は次の3つのレベルで表わすことができます。

(1)ゆるい経営理念 = なんとなく判断する、あいまいな考え方
(2)いわゆる経営理念 = 一般的に経営理念があるといっているもの
(3)本物の経営理念 = 哲学となっている、信念となっている、言行一致しているもの

また、別の視点から、社長や社員が経営理念について聞かれたときの答えは、次のようになる感じです。

(1)ゆるい経営理念なら、「うちには経営理念がない」
(2)いわゆる経営理念なら、「一応、経営理念はあるよ(でも、言えない......)」
(3)本物の経営理念なら、「経営理念をもとに経営をしている(きっぱり)」

しかし、「経営理念はありますか?」と聞かれると、(1)ゆるい経営理念も、(2)いわゆる経営理念も、(3)本物の経営理念もすべてが同じ「経営理念」という言葉なので、お互いに違ったレベルで話していることがよくあります。

よくある経営理念の誤解の一つに、「経営理念は一つの短い文章にする」というものがあります。なんとなく、きれいごとの文章が額に入っているイメージです。これは(2)いわゆる経営理念であり、(3)本物の経営理念とは少し違っているといえるかもしれません。なぜなら、経営に対する広い視点(人生観、社会観、経済観)と思いの強さという2つの軸から見ると、少し物足りない感じがするからです。

もちろん、たった一つの文章に経営理念を凝縮された素晴らしい経営理念もあります。P・F・ドラッカーは使命はTシャツに書けるくらい簡潔なものであるべきといいます。「我々の使命は00を通じて人を幸せにすること」といった短いものです。しかし、その一文だけではさまざまなことが起こる経営全体に対する判断基準を表わすことはむずかしいと思うのです。

ですから、経営理念を一文だけで表わそうとすることにこだわりすぎずに、より多面的に自社の信念、哲学にあたる領域を表現するようにすることです。そうすれば、社員が多くなっても全社員に会社として大切にする価値観をより具体的に伝えることが可能になります。

経営理念(例)をつくるポイント 自立・成長・貢献

ポイント4「社是」として、自立・成長・貢献という言葉を入れました。

(1)「自立」とは、精神的、経済的自立を意味する
精神的自立とは、他責しないということです。さまざまな事柄を自分以外の責任にしないことです。

売上が上がらないのは、商品が悪いから、買ってくれないのは顧客が悪いから、会社がうまくいかないのは社員が悪いから、といつも自分以外に原因を求めると他責することになります。そうではなく、「原因自分」と思うことです。すべての事柄の原因は自分にある。別に自分を責めろというのではありません。自分が責任を持つ範囲を極限まで広げるという思考を持つことです。

「郵便ポストが赤いのも電信柱が高いのもすべて社長の責任」と思うことです。会社の業績が悪いのは、社員の責任ではなく、全て社長の責任と心から納得することが自立することへとつながっていきます。「原因自分」と思うことです。

一方、経済的自立とは、人に頼らずに経済的にやっていけるということです。個人であれば自分で稼いだ分の収入で生活をする。親の収入に頼りすぎない。経済破綻するような過大なローンを組まない、といったことです。同じように企業では、会計上「黒字」であるということです。収入の範囲内で収支を収める。銀行に頼りすぎない。返済可能な必要な分だけ借りる、といったことです。「自立する」「他責しない」「原因自分と思う」という考え方です。

(2)「成長」とは、昨日の自分を超えることである
「人として成長する」というキーワードは、個人にとっても企業にとっても大切なキーワードです。「成長」とは他人との競争だけに明け暮れるのではなく、本当の競争相手を自分自身と思い、「昨日の自分を越えること」を自分自身の目標にすることです。

そして、会社で働く期間だけ成長を意識するのではなく、死ぬまで勉強、死ぬ最後のその日まで人間として成長してゆくことを目標にすることができます企業の視点から見れば、社員の成長こそが企業の成長です。社員の成長がなければ、会社の成長はありえません。それが、人材が大切だといわれる一つの理由です。

「この会社に入ったお蔭で一人でやるより成長できた、多くのことができた」「この会社に入ったお蔭で、海外でこんな経験ができ、成長できた」と感謝する社員がどのくらいいるかは会社を見る大切な指標の一つです。初めは、仕事で仕方なく企業を100件も回らされたかもしれませんが、それが自分の成長につながった、と本人が思えることも多いのです。

より高いレベルの仕事こそが、人を育てます。人材育成は社員のためでありますが、それがそのまま企業のためになるのです。社員のために社員の教育をしてやっていると考えるより、会社の成長のために社員教育が必要なのだという考え方の方が、お互いに得るところがあるように思います

(3)「貢献」とは、人の役に立ち、喜ばれ、感謝されることである
経営理念をつくるうえで、この「貢献」というキーワードは必須です。貢献とは、仕事を通じて人の役に立つことです。たとえば、「この商品は役に立ったよ!」「この店があってよかったよ!」「あなたの会社がなければ困るよ」と思ってもらうことです。それは人に必要とされることです。そして、人の役に立つことで、人に喜ばれることです。さらに、感謝されることです。「ありがとう」といってもらえることです。

貢献するとはこういったプラスの、うれしい感情を受け取ることになります。貢献するとは与えることなのですが、受け取ることになるのです。人に役に立ち、喜ばれることで、自分がうれしくなる。人に「ありがとう」と言われてうれしくなるのです。「人の役に立った、人に喜ばれた、人に感謝された」ということが、その人のモチベーションを上げます。それが、その人の自己肯定感をつくり、自己概念(セルフイメージ)を上げることになるのです。

たとえば仮に、腕立て伏せを1000回連続でできるようになりたいという自己実現欲求を満たした場合、達成感はありますが、自分一人のことであり、周りの人との関係がありません。一方、「この店があってよかったよ!」と喜ばれることは、自分の達成感だけではない、他者との関係性の中でつくり上げられるものです。われわれ日本人はこういった「貢献」「利他」という考え方の中に、幸せ感や生きがいを感じる高度な感性を持ち合わせているといっていいのかもしれません。

経営理念(例)をつくるポイント

ポイント1「『全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する』これ以外に、企業の目的はない」と稲盛和夫氏が言うのですから、経営理念の一番始めはこれでありたいところです。つまり、「社員を幸せにし、社会に貢献する会社であるために会社を経営しています」ということです。

誰でも、自分だけ良ければいいと思うところがあるので、その心を戒めるためにもこの言葉は必要です。つまりそれは利己と利他という考え方です。「社員が社長のために働く」というのではなく、「社長が社員のために働く」という考え方が、社長が利己で考えるのではなく、社長が利他で考えるということです。社長が「社員のため」にと思えるかどうかということが大事なポイントです。

ポイント2経営を見る視点として、(1)人間性の追求、(2)社会性の追求、(3)経済性の追求という3つの視点を入れてほしいと思います。会社は人間の集まりであり、経済を通じて、社会とつながっているということです。経営を考えるときに、この3つのどれが欠けても成り立ちません。人間性を欠いた企業は継続しませんし、社会性を欠いた企業は社会から淘汰されます。また、経済性がない企業も存続できません。

ポイント3「主義」「信条」という言葉をここでは使いましたが、クレド、ウェイ、モットーなど、自分が一番合っていると思う言葉が一番いいのです。

「○○のために」「□□する」というのはわかりやすい表現です。
「○○という人や事柄のために、□□という活動をする」のです。
「その目的のためにこの行動をする」というのでわかりやすいのです。

「社訓」なら「~すべし」「こうあるべき」というトーンになりますが、できたら「私たちはこうありたい」「こうなりたい」というほうが気持ちがいい気がします。
「~すべし」は"MUST"ですが、「こうしたい」は"WANT"だからです。
義務的な感じのする"MUST"と、希望や願望の感じがする"WANT"の違いなのかもしれません。

「人として正しいことをする集団でありたい」という言葉は、人としての「倫理観」(Ethics)です。
この倫理観というものが、経営理念をつくるうえで、一番大事な要素なのではないかと思います。

経営とは詰まるところ、人が人を相手にする行為ですから、最後は信頼関係が重要になるのです。人は誰でも、ウソをつかない人、ズルをしない人とつき合いたいのです。絶対に騙されない、絶対に安心だという人とのつき合いをしたいのです。しかし、現実はそうではないから、みんなが欲しているのです。その根本が、倫理観となるのです。聞けば当たり前だし、どうってことないつまらない言葉なのかもしれません。しかし、それを実行する、そして、全社員が実行し続けるということがとてもとてもむずかしいのです。

経営理念はつくるのも大変ですが、つくってから実際にその経営理念を実行し続けることが一番重要であり、一番むずかしいことです。「浮利を追わない経営をする」といっても日本中がバブルに浮かれていたときは、誰もが本業より浮利を追うことに夢中になりました。あのときにお金があっても、株も土地もやらなかったという人はごく少数だったと思います。

経営理念がなければ、思いっきり突っ込んでいったことでしょうし、たとえ経営理念があったとしても、その衝動を抑えきれずに手を出してしまったのです。わかっていてもやってしまう。お酒が好きな人が、「今日はあんまり飲まないぞ」といいながら、二日酔いで後悔するのに似ているのかもしれません。「今日は早く寝て、早起きしよう!」と思っていてもなかなかできないのに似ているのかもしれません。そういう意味では、経営理念は「弱い自分を縛るもの」といえます。だからこそ、弱い自分を自覚し、間違えが起きないように持戒の言葉を入れておく必要があるのです。

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