経営理念を伝えたために、社員が辞める、ことを恐れない

経営理念を浸透させようとすると、社員が辞めることがあります。

創業社長が3人で会社をつくったときから、ずっと経営理念を伝え、そして入ってくる社員にも同じように経営理念をずっと伝えているのであれば、それが大前提になりますから、社員が辞めるということは少なくなります。しかし中途で入ってくる人は、前の会社や考え方に強く大きく長く影響を受けている人ですから、あなたの会社が独自の経営理念を強く持っているとすれば、考え方が合いづらくなるので、その社員は辞めやすくなります。

さらに、自分が二代目社長、三代目社長などの場合、自分が持つ考え方、経営理念は、今までいる人との違いを生みやすいので、社員が辞めることがあります。

仮に本書を読んで、経営理念の必要性を強く思い、経営理念をつくり、「私がやりたいことはこうだ!」と強く思い社員に伝えた場合、社員は反発します。それでも社長が「絶対、この経営理念で行くぞ!」といえば、たとえその経営理念がいいものであっても、2割、3割の社員、多いときは半分くらいの社員が辞めるということも起こり得るのです。

しかし、それにひるんではいけないのです。自分とは考え方が違う社員がいても、腫れ物に触るように何もいわずそのままにしておくということが、会社の雰囲気を悪くし、会社の業績を悪くしてしまうというケースがたくさんあるのです。もちろん、無理にやめさせろと言っているのではありません。そうではなく、「私はこういうふうに考えている」ということを社員にきちんと伝えるということが大切なのです。そして、その人にはその人なりの考えがあるでしょう。そこを聞き、こちらも話し、丁寧にすり合わせていくということが大切なのです。

お互いに考え方を伝え合うことを恐れてはならないという意味です。社員が辞めるということを恐れるあまり何もいえないというより、自分が思っていることを言い、社員が辞めていくということのほうが幸せなのかもしれません。

たとえば、あなたがサッカーをやりたいとすれば、そこに野球をやりたいという人が入ってきたとしても、野球をやりたい人は幸せではありません。さらに、いつもサッカーをやる人と衝突を起こし、お互いに不愉快な思いをするということになるかもしれません。

日本には253万社の会社があるのです。たくさんの会社がある、たくさんの選択肢があるということです。何も無理をしてあなたの会社にいる必要はないということです。無理に考え方を合わせ、お互いに不愉快な思いをしてやっていくより、それぞれ自分の道を行くほうが幸せではないでしょうか。

社長は経営理念の語り部になること

経営理念を浸透させるには、社長が語り部になることが大切です。

「事あるごとに社長はいつもこう言っている」
「お客様を大事にしようと言っている」
「NO.1であろうと言っている」

人にものを伝えるときには、1回言っただけで伝わるわけはありません。1回言ってダメなら10回、10回言ってダメなら30回、30回言ってダメなら50回、そして100回と、延々とまったく同じことでも語り続ける必要があるのです。つまり、社長は思っているだけではダメなのです。必ず社長は語り部となり、語り続けること、伝え続けることが大切になります。

そのときに、ただ話すだけではやはり相手に届きづらい。したがって、文字にすることが大切になるのです。社長の学ぶべき必須能力は「話して伝える能力」と「文字で伝える能力」です。つまり、社長は経営理念を浸透させるうえで、この2つの能力を高める必要があるのです。いつでも、きちんとわかりやすく伝えることが重要になります。

まずは、話して伝える能力を上げる必要があります。わかりづらい話を延々とするのではなく、短くピシっと伝える。まず初めに一番言いたい結論を言い、次にそれを裏づける理由を言い、そして数字を使い具体的に言い、さらに、相手に伝わりやすいように例え話をする。そういった能力を高める必要があります。

社長であるあなたは、一度自分自身の言葉を録音し、それを聞いて話し方のトレーニングをすることをおすすめします。自分では気づかないことにたくさん気づくことがあります。多くの中小企業の社長は、自分では話がうまいと思っていても、実際はそうではないということがよくあります。人ごとではない自分のことと思ったほうがいいのです。

「ウチの社員は人の話をよく聞かない」「話がちゃんと伝わっているかよくわからない」と思うことがあれば、一度自分自身を振り返ってみてください。社員の問題ではなく、社長の問題なのかもしれません。「つまらない、しかも長い話」につき合わされる社員のほうが「いい迷惑」と思っていることがあります。自分の話の録音を聞いて、「ああ、社員はこんなにつまらない話を聞かされていたのか」と社長が気づくことができたら、経営理念も浸透していくようになると思います。

経営理念によって社長の行動が縛られる

経営理念とは、社長自身の行動を縛るものです。経営理念を、社内外に宣言するということは、大変勇気のいることです。その言葉に責任が出てくるからです。それが自分自身を縛ることになります。しかし人間はとても弱いものですから、そういったものがないと自分に甘くなり、崩れていきます。だからこそ、自分自身を縛るものがあることは非常に大切なのです。

「経営理念があり、それを日々口にしていることで、弱い自分自身を強くすることができる」といえるのかもしれません。「全従業員の物心両面の幸福を追求する」と社内外に宣言した瞬間から、社長であるあなたは「社員の幸せを考え、社員が幸せになるような行動」をとらなければならなくなります。

「こんな儲け話がありますよ」とある人から持ちかけられたとしても、「それは本当に社員の幸せになるのだろうか?」と自分自身に問いかけることになります。多くの人がバブルでそうであったように、うまい儲け話に転びやすいのです。「この土地が上がります」「この株が上がります」という話が「あなただけに」と持ちかけられれば、誰でもそれに手を出したくなります。しかし、社員を幸せにするという経営理念を持った瞬間に、そういった思いを絶ち、「"濡れ手で粟"のような儲け話に飛びついてはいけない」と思えるようになるのかもしれません。

もう一つわかりやすい例でいえば、朝早起きをするのは、自分一人でやろうと思ってもむずかしいことかもしれませんが、「私は必ず朝7時に会社に来ます」と宣言をすればやりやすいのです。その宣言で自分自身を縛るからです。「必ず、朝7時に会社に来て、その日、社員のために自分の身をささげる」と宣言し、行動すれば、それは習慣になります。

このように、社長が自分自身を経営理念で縛り、行動し、習慣化することが経営理念を浸透させる一つの方法ともいえるのです。そして、社長が率先垂範することが大切。経営理念を浸透させるうえで大切なことに、社長が「率先垂範」するということもあります。経営理念というのは社員にやらせるもの、社員をこき使うためのものではありません。社長の思いを文字にしたものであり、どうすれば会社が良くなり、どうすればみんなが幸せになるかということを掲げた考え方、宣言なのです。

したがってそれは、ことし入った新入社員が一番最初にやるというものではありません。課長がやるよりも部長、部長よりも役員、役員よりも社長がやるべきものです。だからこそ、「社長が一番に率先垂範する」というものであってほしいのです。

社長の言行は一致しているか?

経営理念を浸透させるうえで最も大切なことは、「言行一致」です。言行一致とは、「言っていることとやっていることが一緒」ということです。しかし、これこそが最もむずかしいことの一つなのです。言うのは簡単です。しかし、やることがとてもむずかしいのです。これは誰の人生においてもまったく同じです。人生の中で最もむずかしいことの一つといえます。

たとえば、「時間を守ろう!」といったとしても、その日のうちに破っている人はたくさんいると思います。この1年間、アポイントに1回も遅れていないと言い切れる人は職場に何人くらいいるでしょうか?あなたはそう言い切れるでしょうか?

経営理念を浸透させるうえで本当に大切になってくるのは、会社のトップである社長がそういった約束を守っているかどうかなのです。「社長の言行が一致しているかどうか」ということになるのです。つまり、社長という職業は本当に大変な職業なのだといえます。みなに見られる中で、一貫して約束を守り続けなければならないわけです。社長の一挙手一投足はすべて録画されている、そんなイメージを持っていただけたらと思います。

社長とは経営理念が服を着た人であるので、社長の言動は経営理念そのものとなるのです。したがって、「経営理念で言っていることと言行一致していないということはありえない」という状態であってほしいのです。というよりも、社長の行動と人生そのものを正して生きていくことが大切なのです。社長の生き方のどこかにズルさがあり、いつも不平不満や人の悪口をいうことが多いなら、おのずから経営もそのようなものになってくるはずです。

社長の生き方が正直で、いつも感謝の言葉を言うことが多いなら、やはり経営もそうなってくるはずです。経営の根本である「社長の生き様」が経営に反映されてくる。経営理念の実践とは「社長の生き様」そのものであるともいえます。

経営者は公私混同しない

ここには3つのポイントがあります。(1)時間、(2)お金、(3)人事についてです。

(1)時間
仕事と称したゴルフに行く人が多いのです。たしかに、お客様との接待のゴルフもあるでしょう。しかし友だちとするゴルフ、また平日にするゴルフを仕事と称し、社員にも「ゴルフに行ってくる」と公言するようになると、それは時間の公私混同が始まっていると言っていいのかもしれません。

社長に対して社員は誰も何も言ってくれなくなります。たとえ社長が朝遅く出社しても、「社長、遅刻しないでください」などと社員は言いません。だからこそ、経営理念で自分自身を縛る必要が出てくるのです。逆に誰よりも早く出社する社長であってほしいものです。

(2)お金
社長になればいくらでもお金の公私混同ができます。とくに創業社長の場合にはありがちです。たとえば、お客さんと食事をする。これはたしかに会議費や、接待交際費となります。しかし、家族と食事をするということになれば、会社の仕事と関係のないものです。そのときに領収証をもらい、会社の費用にしてしまうのか、そうでないのか。こういったところに、お金の公私混同をしないという社長の理念が表われることになります。

(3)人事
誰でも人間には情があります。かわいい部下をかわいがってあげたくなるものです。仕事の能力がないけどなんとなくかわいがっている人間を部長にしたり、自分の言うことをよく聞く人間の給料を多くしてあげたくなるのです。それは人情だから仕方がないのです。しかし、ある部分仕方がないのですが、それが会社を悪くしていく原因の一つとなるのです。会社の人事というのはあくまでも公平でなければなりません。もし、そうでなければ社員はシラケます。

公平でない人事が行なわれることによって、社員のベクトルが合わなくなるのです。そのベクトルを合わせていくために、人事では公私混同しない、フェアにオープンに行なうという経営理念が必要となってくるのです。

経営理念を行動にうつす

経営理念はつくっただけでは意味はありません。経営理念は実践しなければ「ない」のと同じです。自動車を買っても乗らなければ、持っていないのと同じ。知識を学んでも使わなければ知らないのと同じなのです。理念、理念と唱えていても何も変わりません。理念を行動に移すことが大切です。具体的にどうしたらいいのか、そのヒントをいまからお話しします。

(1)「ニコ、キビ、ハキ」
これは、まったくゼロから一部上場企業をつくった『カレーハウスCoCo壱番屋』の宗次德二氏が、会社の社是として挙げているものです。「ニコ、キビ、ハキ」とは、「ニコニコ、キビキビ、ハキハキ」の略です。

「ニコニコする、キビキビ動く、ハキハキ答える」ということです。この言葉は誰が聞いても嫌な感じがしません。一方、この逆は、「ブスッとした顔をする、グズグズする、グダグダする」といったものになります。なんかいやな感じですよね。

ニコニコとは顔の表情であり、キビキビとは体全体の動きであり、ハキハキとはその人の言葉使いであり、体の雰囲気を表わします。つまり、カレーショップという接客業をするのであれば、そういった行動が大事なのだ、ということを理念として伝えているわけです。これであれば、誰が聞いても賛同でき、誰が聞いても具体的にすぐ行動に移れると経営理念といえます。

(2)「時を守り、場を清め、礼を正す」
これは、日本を代表する教育者といわれる森信三先生の言葉です。

一つ目の「時を守り」は、時間を守るということです。たとえば、人とのアポイントや会議の時間に、必ず5分前に行く、5分前に待っている行動です。

営業の訪問を例にとってみましょう。多くの場合、訪問する側というのは失礼がないように、遅れてはいけないと思い5分前または10分前に訪問先に着いているものです。相手に敬意を表し、ものを買ってもらいたいと思っているわけです。

一方で、その訪問を受ける側は、相手が来てくれるのだから、自分は時間ギリギリまで仕事をしていればいいやという心がどこかに働き、訪問した人を待たせることが実際にはよくあるものなのです。そして立場が高くなり、いつも自分の事務所に相手が来訪をしてくれるようになると、少しくらい人を待たせてもなんとも感じなくなるものです。

そういった弱い心を理念というもので縛り、自分自身を律してゆくことが大切です。たとえば、相手が訪問してくれるときにはその人がエレベーターで上がって来るのをエレベーターの前で待つ。5分前に待っているというような行動をとることこそが、「時を守り」という行動につながります。相手が1時間かけて来訪してくれることを考えれば、ある意味、当然の行為ともいえます。

二つ目の「場を清め」とは、掃除をすることともいえます。しかし、ただ単にチョロッと掃除をするというものではなく、毎朝、自分が使う机の上を熱心に雑巾がけをしているようなイメージです。「机の上はいつもきれいさっぱり何も置いていない、あるのは電話だけ」というような整理整頓された状態です。

その範囲は自分の机だけではなく、両隣の人、または自分のフロア、そして会社全体、さらに会社の周り 100m、500mと、場を清める範囲を広げる。広げるという行動をとることが、会社を良くしていくという理念を実現しているともいえるわけです。日本中の会社が自分の会社の周り100mをきれいにするようになったらば、日本はきれいな国家になっているはずです。

三つ目の「礼を正す」とは、「挨拶をする」「返事をする」といったことです。「朝の挨拶人より先に」この一つだけでも一生続けられたらそれはもう立派です。その挨拶をする範囲も、職場で自分の上司だけではなく、同僚であり、自分のメンバーです。

そして同じビルの他の会社の人や、朝、家を出た時に会う人とその範囲が広がることによって、その理念と行動がより高いレベルになってゆくのだと思います。返事とは、相手に聞こえる気持のいい「はい!」です。返事をするといっても、本人は言ったつもりでも相手に届かない、相手が聞こえないといった場合があります。そうではなく、必ず相手に対して気持ちのいい返事をすると気をつける。

これだけでも立派な経営理念、行動の指針となるはずです。この「時を守り、場を清め、礼を正す」という言葉は「職場再建の三大原則」と森信三先生が述べているものです。参考にしてください。

経営者とは経営理念が服を着て歩いている人である

経営者がやっていることを言葉にすれば経営理念になる経営者とは、経営理念が服を着て歩いている人です。経営者とは経営理念そのものなのです。社長というのは「言っていることとやっていることが違う」とよく言われることがあります。しかし、このことはもう少し違った見方ができます。言っていることとやっていることが違うのではなく、社長がやっていることを言葉にしたものが経営理念と考えればいいのです。そうすれば、言っていることとやっていることがピッタリあいます。

「社員を幸せにする」といいながら、言うことを聞かない社員の首を平気でさっと斬るのであれば、経営理念は「言うことを聞かなければさっと首を斬る」です。「みんな全力でがんばろう!」と言いながら、社長だけが11時に出勤したり、会社の仕事をせずに地域の会合に昼間から出ていたりしたら、「好き勝手に仕事をしよう」かもしれません。つまり、言っていることとやっていることが違うのではなく、やっていることを経営理念にすればいいのです。

しかし、それではとてもいい加減(?)な会社になってしまうようなら、「ありたい姿」つまり、「どうしたいか?」を経営理念として書き出してみてください。

毎日、何を考え、話しているのか?社長とは、経営理念が服を着て歩いている人だとすれば、社長が持つセルフイメージが経営理念と強く結びつくことになります。社長が毎日考えていること、毎日話している内容こそが経営理念そのものなのです。このことは経営理念を深め、つくるうえでとても重要なことです。

社長という人が1日24時間の中で考えることがすべて文字起こしされ、社長が話すことがすべて録音されて文字になったときに、そこに何が書かれているかが重要なのです。「社員の幸せが大切」と経営理念に書いてある会社の経営者が、年間100回以上ゴルフに行き、会ってみたら口から出る言葉の大半がゴルフの話題なら、本当の経営理念は「私がゴルフをするために社員を働かせる」なのかもしれません。

そうではなく、「どうすれば社員が幸せになるのか?」「どうすれば利益を出して社員によりいい給与を払ってあげられるのか?」ということを、明けても暮れても四六時中、考えて続けている社長の経営理念なら「社員を幸せにしたい」となります。

この「自分が何を考え、何を話しているのか」ということに一度、注目してみることはとても大切です。経営理念とは、社長が毎日考え、話していることがすべてのベースとなります。そう考えれば、経営理念を深めることは社長自身を知ることに深くつながっていることがわかってもらえると思います。

経営理念とは、社長の思考と言葉です。

「家族を大切にすること」は経営理念

日本では売上10億円までの企業が全体の約90%になります。売上10億円までの企業の大半が、社長が旦那さんで奥さんが役員をやっています。経営者の親族が経営をしている家族経営が多いのです。いわゆる「ファミリービジネス」(同族経営)です。ファミリービジネスは、(1)家族、(2)経営、(3)株主の3つの輪の多くの部分がかぶさっているものです。

つまり、家族で経営をやり、株主も家族というものです。ファミリービジネスというと、売上10億円以下の小さい企業だけと思う人も多いかもしれませんが、そんなことはありません。日本でも世界でも大企業の中にはファミリービジネスでやっている企業がたくさんあります。

たとえば、トヨタ自動車、YKK、サントリー、伊藤園、キッコーマン、ミツカン、大正製薬、イオン、ニトリ、矢崎総業、海外ではフォード、ベンツ、ポルシェ、ロックフェラー......大企業でもキリがないほどあります。実は、日本の企業の95%以上がファミリービジネスなのです。

悪いことでもなければ、少数の特例でもない。"保守本流"といったほうがいいのです。したがって、経営をするときには経営陣は自分の家族との関係を視野に入れておく必要があるのです。たとえば、先ほどのような売上3億円で今季は赤字になるという企業があった場合、社長と奥さんの対話が必要になります。

社員15人は家族のようなものです。その人たちにボーナスを出すのか出さないのか?出すとしたらそのお金は、どの財布から出すのか?いくら出すのか?その金額でいいのか?こういったことを社長である旦那さんと、経理役員である奥さんとで話し合う必要があるのです。このときに理念、つまり考え方、お金に対する原理原則が違うと、「ケンカ」になるのです。勢いづくと「なら、出ていけ!離婚だ!」となるわけです。

社長である旦那さんは、売上が1億円から2億円、3億円と上がり社員も増えると、つき合う人も売上10億円、50億円、100億円の社長となっていく。すると、なぜか自分も偉くなったように錯覚します。たしかに接する世界が違い、入ってくる情報の量が奥さんより多くなる。

すると「ウチの奥さんは私の成長についてきていない」「いろいろ話しても、わかってくれない......」という気持ちを持ち始め、気持ちがすれ違うようになるのです。「あの先輩経営者はスゴイ。あの人についていこう」「女房に何を言ってもわかるわけがない」となると危険信号です。

創業した頃から一緒に苦労し、背中を押してくれた、応援してくれた奥さんをいつの間にか大切にしなくなるのです。考えてみてください。社長である自分を世界で一番わかってくれているのは奥さんです。たしかに血はつながっていない赤の他人です。しかし、縁あって一緒になったのです。その人より大切な人はいるのでしょうか?

病気になって腎臓が一つ必要だと言われたら、「いいよ、自分のを一つあげよう」と言えるのは奥さんか子どもではないですか?(いや、実は別の人がいて......とか言ってたりして)経営は戦略だけでできるものではありません。理念だけでもできません。冷たい数字だけでもない。温かい温情だけでもない。しかし、家族的な温かさがなければ、人は働いても楽しくもなければ幸せでもないと思うのです。

経営者は孤独です。経済的なリスクの伴う、どんな経営判断も最後は自分でしなければならない。そして、責任を取らなければならない。しかし、家族だから支え合えるときもあると思うのです。  

トヨタ自動車のような世界企業レベルのファミリービジネスと、売上3億円のファミリービジネスとでは規模もレベルも違うかもしれません。しかし、小さい企業だからこそ、ファミリーを大切にして経営をしてゆくことが大切なのではないでしょうか?

夫婦仲が悪くて、家族でケンカが絶えない状態では、経営もうまくいくはずがありません。ある100億円を超える企業の経営者は「私は離婚したら社長を辞める」と宣言しています。素晴らしいです。なかなかできるものではありません。ここに一つの「覚悟」を感じます。経営理念の中に、「大家族主義」とともに、「家族仲よく」「夫婦仲よく」という項目があってもいいかもしれません。

一切の人間関係のうち夫婦ほど、たがいに我慢の必要な間柄はないと云ってよい。夫婦のうち人間としてエライ方が、相手をコトバによってなおそうとしないで、相手の不完全さをそのまま黙って背負ってゆく。夫婦関係というものは、結局どちらかが、こうした心の態度を確立する外ないようですね。

森信三  「森信三語録 心魂にひびく言葉」

経営理念をつくることが社長の仕事

経営理念をつくるにはまず、社長がつくることです。8割が社長、残り2割が社員という感じです。もちろん会社によって、社長によってつくり方が違うので、これに縛られる必要はありません。経営理念を「社長が決めて、まとめてもらう部分は社員にやってもらう」ということはあります。しかし、社長が決めるのが1割で、社員で9割決めるということは「ない」と思います。もし仮に、社員が経営理念の9割を決める会社があるとすると、それはいったい誰の会社になるのでしょう?

ドラッカーが「ミッション、ビジョン、バリュー以外はすべてアウトソースできる」といったように、経営理念をつくることが社長の仕事です。それを他人にやってもらうなら社長を辞めたほうがいいのかもしれません。

「いや、ウチには経営理念がない」という社長がいるかもしれません。しかし、昨日も今日も毎日、仕事に関する決断をしているはずです。お金を支払うとか、この仕事をやるとかやらないとか。その判断の基準が社長の考えをベースにしているわけですから、やはり経営理念、つまり考え方はあるのです。そして、その社長の判断によって会社が動いているということです。ですから、社長が経営理念、判断基準をすべて人に任せるのであれば、社長でいる必要がないのです。やめたほうがいいのです。

社長を辞めるというとすごく大変なことのように思われるかもしれませんが、たまたま社長になった人、やりたくもないけど社長をやっている人は意外と多いのです。社長になるのには試験がありません。資格も必要がないので、日本中に253万社もあるのです。「私が社長です」と言えば社長になれます。平成26年9月現在、就業者数は6402万人です。全就労者のうちの5.4%、つまり20人に1人が社長なのです。「誰でもなれる」という職業です。

しかし、社員がいれば雇用を守るという、大きな責任があります。社員であれば、会社と合わなければ転職しますが、社長はあまり転職しません。本当は社長を辞めてもらったほうがいいという社長がいます。その人が社長をすることで社員を不幸にしてしまう人です。誰も言ってくれないから、社長に居座り続けるのです。ですから、本当に自分自身に問うてみてほしいのです。

もし、社長をしてはいけない人ならば、勇気を持って社長を辞めてみてください。そのほうが社員が幸せになり、自分ももっと幸せに、なるかもしれません。この文章を読んで、「そうだな、自分が社長で本当にいいのかな?」とちょっとでも思った人は、社長でいいのかもしれません。「何言っていやがる、オレが社長をやらないで誰がやる!」と思った人のほうが、本当に交代を考えたほうがいいのかもしれないのです。

ちなみに、いわゆるプロゴルファー(トーナメントプロ)は2316人(2014年)しかいません。253万人いる社長の1000分の1です。逆に言うとプロゴルファーになるのは社長になるより1000倍難しいということです。それも来年もプロでいられる保証がどこにもないという厳しさです。こう考えると社長というのはお気楽な職業なのか、厳しい職業なのかよくわからなくなります。

ウチにはそんな経営理念なんていらない......

「私の会社は会社というほどでもないんで、夫婦でやっているだけなんです。だから経営理念なんていらないんじゃないかと思っています」という人もいるかもしれません。しかし、試しに巻末の経営理念フォーマットを使って、自分の思いを紙に書き出してみてください。自分が気づいていないことを発見できると思います。

さらに、その思いを紙に書き出して家族やお客様に話すことで、自分自身のモチベーションがあがるものです。仕事をやる意欲が出てきます。

夫婦二人でやっているマッサージ店の場合(例)経営理念 = マッサージを通じて人を幸せにしたい
ミッション(使命) = 地域の人のためにリラックスできる場を提供する
ビジョン(将来像) = 心と身体を癒すマッサージで信頼度、地域No.1になる
バリュー(価値観) = お客様に愛されるお店でいたい/お客様の体と心に意識を集中させる、より高い技術の習得に日々努める

社是 = お客様になくてはならないお店であるべし
社訓 = 顧客満足の追求信条 = 「よかったよ、また来るよ」といってもらえるサービスを徹底する
モットー = いつも笑顔で楽しく働き、より多くのお客様に喜んでもらおう

スローガン = いつもリフレッシュ! リラックススペース川崎/お帰りなさい! リラックススペース川崎
クレド = お客様との心と身体と言葉の対話を大切にします/会計処理はその日のうちにキッチリと、ごまかさずに会計します
行動指針 = プロとしての誇りをもって、いつでも技術の向上に努めます

たったこれだけの言葉かもしれませんが、自分がやる仕事に誇りを持つきっかけになります。より多くの人に役立てるように、営業を始めるかもしれません。

これでいいやと思いたくなるときに、もう一歩がんばろうと思えるかもしれません。そういった自分自身を励ますものが経営理念でもあります。さらに、お客さまへの約束事、自分自身への約束事を盛り込んで、常に向上できるような指針にされることをおすすめします。

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