経営の目的は利益ではない

【質問】あなたは何のために経営をしていますか?

こう聞かれたら、何と答えるでしょうか?この質問は重要です。経営理念を考えるうえで最も根本的で大切な部分となります。次の文章を読む前に、1分だけでもいいので、本を閉じ、目を閉じて自分なりに考えてみてください。

経営者であれば、自分が経営をする目的、動機を考えるということです。経営者でない人は、「何のために仕事をしているのか?」と置き換えてもいいと思います。自分の部署という会社を経営しているとしたら、それは何のためでしょうか?「経営の目的は利益を出すことだ!」と、ある上場企業の役員が大勢の社員に向かって大きな声で話をする会場に居合わせたことがあります。しかし、この発言は間違いです。

たとえば、P・F・ドラッカーは『現代の経営』(ダイヤモンド社)の中でこう言います。「『事業体とは何か』を問われると、たいていの企業人は『利益を得るための組織』と答える。たいていの経済学者も同じように答える。しかし、この答えは、間違いであるだけではない。的外れである」つまり、「経営の目的は利益を出すこと」と考えることは間違いなのです。さらに、的外れであるとドラッカーは述べています。

利益の役割は、(1)業績悪化への備えであり、(2)将来投資の費用であり、(3)業績を見る指標であるといいます。

「経営の目的は利益を出すこと」という考え方は、「働く目的はお金を稼ぐこと」「生きる目的は食べること」という考え方に似ています。たしかにこういう考え方があるかもしれませんが、もう少し違った見方をしてみましょう。

では、経営の目的とはいったい何なのか?

「『全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること』これ以外に、企業の目的はないと、私は思っています」(稲盛和夫/『心を高める、経営を伸ばす』PHP文庫より)

ドラッカーは学者であり、世界を代表する経営コンサルタントですが、実業をしたことがない人です。一方、稲盛和夫氏は世界でただ一人、1兆円を超える企業を2社つくり上げ、1兆円を超える企業1社を再生した実業家です。稲盛氏のつくった京セラの売上は1兆4474億円、KDDIは4兆3336億円、事実上倒産した日本航空(JAL)の会長に就任し、再建後、売上は1兆2000億円、利益は2000億円を超える過去最高となりました(2014年度3月現在)。

つまり、「世界最高の実績を出した経営者」と言っていい稲盛氏が、経営(企業)の目的は「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」と述べているのです。この考え方で圧倒的な業績という結果が出ているのですから、反論しようがないのです。

したがって一度、「『全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する』これ以外に、経営の目的はない」とわれわれも思ってみることをおすすめします。さらにドラッカーは、企業は顧客に貢献することで、社会にその存在意義が生まれると述べています。

「事業の目的として有効な定義はただ一つである。それは、顧客を創造することである」(P・F・ドラッカー/『現代の経営』ダイヤモンド社より)

ここで、稲盛氏とドラッカーの両方の思想を統合すると、「ビジネス(商売)の目的は顧客を創造することであり、会社を経営する目的は社員を幸せにし、社会に貢献することである」といえます。

会社にまとまりがないのは経営理念がないから

中小企業の経営がうまくいかない原因は、社外にあるのではなく多くの場合は社内にあります。世界経済がどう、景気がどう、市場の変化がどうと言ってみても、中小企業にはあまり関係がありません。SWOT分析がどう、バランススコアカードがどう、戦略がどうと言ってみても、それが機能しなければ何も生まれません。

売上数字が上がらないのは、戦略がないからです。会社にまとまりがないのは、経営理念がないからです。そして、会社にまとまりがないことのほうが、戦略がないよりも問題なのです。つまり、社員が一生懸命働いてくれないことのほうが問題なのです。だから、社員が言うことを聞かない、ベクトルが合わないことに注目したほうがいいのです。

それを解決するのが経営理念です。社外に原因を求めるより先に、社内でできることがたくさんあるはずです。

長年働いている社員が多い会社でも、一人ひとりの価値観がバラバラなので仕事をするうえでの判断基準がブレているという会社はたくさんあります。中途採用者が多ければなおさらです。たとえば、「佐藤部長は売上が大切だと言っているが、伊藤課長は利益が何より大切だと言っている」となると、メンバーは迷います。どっちを信じていいのかわからなくなる。この迷っている時間が生産性を大きく悪くするのです。

そしてさらに、「売上重視なら商品A、利益重視なら商品Bであることはわかっている、でも、どうしようかな......。まあ、今回は佐藤部長が言うから、商品Aをやっておくか」といういい加減なやり方になってしまうのです。つまり、経営理念がないために社員が迷います。ベクトルが合わないのです。判断基準がブレているために社員が投げやりになります。そして、社員がついてこないのです。だから、しっかりとした考え、判断基準、つまり経営理念が必要となります。そうすれば社内がまとまり、経営がうまくいくようになるのです。

しかし、考え方、経営理念については、学校でも社会に出ても、誰も教えてくれない場合が多いのです。ですから、多くの人は経営理念の重要性についての理解がなく、経営理念を軽視しがちです。しかし、組織をまとめてゆくには経営理念ほど重要なものはないといえます。

経営の3つの視点 社会観

社会観とは、社会全般に対する見方です。企業経営をすれば社会との関わりが出てきます。企業という顧客であったり、消費者という市場であったり、会社が存在する地域社会との関係が出てきたりします。不良品を世に出してしまったときに対応する「社会的使命観」もあれば、障害者雇用をする社会的使命観もあるでしょう。継続して企業を発展させるためには日本の経済の「未来観」を持つことも必要です。そして、世界に商品を販売しようとするならば販売先の国家に対する歴史や人種、経済などの「国家観」が必要です。その国家観の集積が「世界観」となるわけです。

たとえば、「中国や韓国はどういった歴史があるのか?」「どういう思想なのか?」「反日の国家と親日の国家は何が違うのか?」「一番ビジネスがしやすいのはどの国なのか?」といったことを調べ、理解し、自分なりに社会観を持って仕事をすすめてゆく必要があるということです。

「タイは親日で、人柄がいい、だからタイに一番初めに進出する、この事業がタイに進出すると、タイにこういった社会貢献ができる」という強い信念、理念があれば、経営が成功する可能性が高くなります。何も知らずに、思いや理念がなく、なんとなく進出するのとは結果が違ってきます。

こういった経営観、人生観、社会観という「思いの広さ」というヨコ軸と、「思いの強さ」というタテ軸で経営理念を見ることができます。より良い経営を目指すには、より広くより深い経営理念を持つことが求められます。

経営の3つの視点 人間観

経営というものは人間と人間が行なうものですから、人間に対するしっかりした見方を持つ必要が出てきます。

(1)倫理観経営理念の中で、とくに大切だと思う内容は「倫理観」(ethics:エシクス)です。言葉を変えると、「人として正しいことをする」といえます。たとえば、「自分の胸に手を当ててみる」「自分の心に聞いてみる」「お天道さまが見ている」といった表現にあるようなものです。経営理念の一番のおおもとになるものがこの倫理観ではないかと思います。なぜなら、いくら経営理念をつくり、さらに細かい規則で社員を縛ってもこの倫理観がなければうまくいかないからです。

ドラッカーは「高潔さ」(integrity:インテグリティ)が経営のトップには必要だといっています。また、高潔さだけではなく誠実さ、正直さ、勇気といったものも必要になってくると思います。

「人はウソをつく、ズルくて、弱くて、卑怯だ、だからこそ倫理観を持つことが大切だ」
「人は一長一短だ、人は一人でできることは限られている、だからこそ助け合うことが大切だ。人は成功するとすぐに傲慢になる、だから謙虚にすることが大切だ」

こういった価値観、人間観も、経営をするうえで必要なのです。

(2)幸福観社員の物心両面の幸福を追求するとしたら、いったい人は何に幸福を感じるのだろうかと、価値観を持たなければならなくなります。たとえば、「社員の給料はいくらにしたらいいのだろうか?」と社長になれば悩みます。多くの社員は「お金のために働いている」と思っていますから、社員にとっては給与は一番の関心事です。ですから、理念=考え方が必要になるのです。

給与は上がればうれしいし、下がればうれしくない。どんなに高くなってもうれしいのはそのときだけで、上がればそれが当たり前になり、感謝しなくなります。いくらもらおうが、いつでもどこかに不満を持っているものです。そして、人と比較したくなる。他人の給与が気になる。同僚がいくらもらっているのか、他社はどうなのかと気になる。

これは給与に関する一つの見方でしかありません。しかし、こういった人間心理を理解したうえで、人の幸福観を考え、経営理念に反映させてゆく必要があるのです。「給与は業界平均の10%上を目指す!」を経営方針にする会社もあります。これは立派な価値観であり、経営理念といえます。

(3)死生観「経営者は経営に身を捧げなさい」(宗次德二/カレーハウスCoCo壱番屋創業者)
「命をかけるくらいの責任感で毎日を生き、その姿勢をどのくらいの期間続けてきたかということで、真の経営者の価値が決まるのではないかと思います」(稲盛和夫)

「経営に身を捧げる」とは素晴らしい言葉です。ここに強い思い、つまり経営理念があります。この言葉は、経営に対する強い思い、つまり経営観であり、経営者としての人生観でもあります。「経営に身を捧げる」「命をかけるくらいの責任感」という言葉からは、全身全霊で仕事にあたるという強い思い、命を使うという使命感を感じます。「寄らば切るぞ!」とでもいうような迫力を感じます。

「おつき合い」と称した夜の飲み会や○○クラブの活動に精を出す経営者の姿像とは違うものです。社会貢献と称して、会社の仕事よりも社外の役を引き受けて時間を浪費する姿とも違います。「命をかける」というのは、「この仕事のためなら死んでもいい」「仕事中に死ねるなら本望だ」「いつ死んでも悔いはない」という「決意」「覚悟」があるということです。

「働くとは何か?」という労働観を深く考えれば、人生観、死生観にまで至るのです。人生の大半を労働に費やすことになるのであれば、労働観、職業観と人生観が密接につながってきます。つまり、経営理念は人生理念と同じといえます。

経営理念の3つの視点 経営観

経営理念を経営観、人間観、社会観という3つの側面から見てみましょう。

経営観 = 顧客観、商品観、技術観など、事業経営、経済に関わる物の見方(観)
人間観 = 倫理観、幸福観、死生観など、人間そのものに対する見方(観)
社会観 = 社会的使命観、未来観、世界観など社会全般に対する見方(観)

経営観
「経営」理念ですから、「経営」に関するものの見方が一番初めです。

【質問】
経営とは○○である。
社員とは○○である。
「○○」の部分に何の言葉を入れますか?

たとえば、「経営とは芸術である」「経営とは利他行である」など、いろいろな考え方があります。

経営観をもう少し分解すると、経営をするうえで必要な「顧客観」「商品観」「技術観」などとなります。たとえば、「顧客に対する考え方はこうする」といったものです。「顧客第一主義」という考え方もあれば、「社員が第一、顧客は第二」という考え方もあります。どちらが絶対に正しいというものではありません。人の人生と同じで十人十色、百人百様です。

商品については、いつでも世界最高の商品品質を目指す会社もあれば、世界最高でなくてもおふくろの味を大切にするという会社もあります。同じように技術では、世界初発の最新の技術を追求する会社もあれば、すでにある技術を組み合わせること技術を追求する会社もあるかもしれません。

また、人材に対する考え方も、社員は家族であるとする会社、社員はパートナーであるとする会社など経営に関わるすべての事象にしっかりした考え方=理念が必要となってくるのです。たとえば、「賃金の5原則」といわれるものがあります。

【賃金の5原則】
・賃金は通貨(現金)で支払わなければならない。
・賃金は直接本人に支払わなければならない。
・賃金は全額を支払わなければならない。
・賃金は毎月1回以上支払わなければならない。
・賃金は一定期日に支払わなければならない。

言われれば、「そうか!」というものであり、詳しくは知らなかったけど、実際にやっていたというものかもしれません。経営理念とは原理原則なので、こういった原則、ルールを一つひとつはっきりさせていく必要があるということです。

なぜ利益が必要なのか?

利益を出す目的は社員を幸せにするため

ここで、「『全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること』これ以外に企業の目的はない」という言葉を分解して考えてみましょう。

「物心両面の幸福」ということは「物と心の幸せ」です。まず、「物」の幸せがあります。これは「経済的豊かさ」と言い換えられます。つまり、(3)経済性の追求のことです。次に、「心」の幸せです。これは「この会社で働けてよかった」という満足感だと思います。それは、次のようなものです。

「この会社で成長できた」
「この会社の人たちと働けてよかった」
「給与も少しは多くもらえた」
「家が建てられた、子どもを学校に行かせられた」
「この会社を誇りに思う」

つまり、次のようなことの総和です。

「仕事を通じて仕事ができるようになった、人間的に成長したという成長感」
「いい人たちと働けた、温かい人間関係が持てたという所属感」
「家も持て豊かな生活ができたという満足感」
「子どもを学校に行かせることができたという達成感」
「会社を誇りに思える満足感」

そして、それを実現するために(3)経済性の追求が必要になるのです。社員の生活を守るために、給与をきちんと払い続けることができるために、会社は利益を上げ続けなければなりません。利益が出なければ社員の給与が払えないばかりか、会社自体が存続できなくなるからです。

また、利益とは会社がつくる「付加価値」です。その付加価値をつくるのは、「社員」なのです。設備投資をした機械だけが付加価値をつくるのではなく、社員が付加価値をつくります。したがって、社員は付加価値がつくれるように、「成長」し続けなればなりません。ずっと新入社員のレベルですべての仕事をしていたら、付加価値が上がらないからです。

人は仕事を通じて、成長し成長感を味わいます。仕事を通じて人と関わり、所属感を持ちます。仕事を通じて、できなかったことができるようになり達成感を味わいます。そして、仕事を通じてつくり上げた実績や、そのときに味わう喜びや感情が、その人の誇りとなるのです。このプロセスが人間性を向上させます。

つまり、経営の目的とは社員を幸せにすること、社会に貢献すること、そのために利益を出すことといえます。人間性を追求することが社会性を追求することになり、同時に経済性を追求することになる。この(3)つの要素を追求することが、経営をするうえで大切といえます。

社是と社訓の違いを具体例で学ぶ

社是=会社が是(正しい)とするもの
社訓=会社で守るべき教え(訓は教えの意)、会社の教訓

「社是と社訓は同じ」と言う人もいますが、より正確に考えると、社是と社訓は違うものなのです。次の実例で具体的な違いを見てみましょう。

【三菱重工業「社是」】
一、顧客第一の信念に徹し、社業を通じて社会の進歩に貢献する。
一、誠実を旨とし、和を重んじて公私の別を明らかにする。
一、世界的視野に立ち、経営の革新と技術の開発に努める。

【ヤマトホールディングス「社訓」】
一、ヤマトは我なり
一、運送行為は委託者の意志の延長と知るべし
一、思想を堅実に礼節を重んずべし

ホームページより

三菱重工業の場合は「社是」ですから、会社が是(正しい)とするものです。ここには3つの是があります。3つの文章を要約すると、貢献することが是、和を重んじることが是、技術の開発に努めることが是、つまりそれが会社として正しいことといっています。

ヤマトホールディングスの場合は「社訓」ですから、会社で守るべき教え、教訓となります。3つの文章は「こうするべし」という教えとなっています。とくに1つ目(ヤマトは我なり)は、「自分自身=ヤマトという意識を持ちなさい」という思いであり、教えです。この教えというものが社訓となります。

したがって、三菱重工業の社是を「社訓」に変えたり、ヤマトホールディングスの社訓を「社是」にしたりすると、それぞれ3つの文章が少しおかしい感じがすることに気づくと思います。

たとえば、三菱重工業の社是の3つ目(世界的視野に立ち、経営の革新と技術の開発に努める)は、社是(会社が是とするもの)であっても社訓(会社で守るべき教え)ではないということです。

なぜ、経営理念が必要なのか?

中小企業の経営がうまくいかない原因は、社外にあるのではなく多くの場合は社内にあります。世界経済がどう、景気がどう、市場の変化がどうといってみても中小企業にはあまり関係がありません。SWOT分析がどう、バランススコアカードがどう、戦略がどうといってみてもそれが機能しなければ何も生まれません。

売上数字があがらないのは戦略がないからです。会社にまとまりがないのは経営理念がないからです。そして、会社にまとまりがないことのほうが、戦略がないよりも問題なのです。つまり、社員が一生懸命働いてくれないことの方が問題なのです。だから、社員がいうことを聞かない、ベクトルがあわないことに注目した方がいいのです。社外に原因を求めるより先に、社内でできることがたくさんあるはずです。

長年働いている社員が多い会社でも、一人ひとりの価値観がバラバラなので仕事をする上での判断基準がぶれているという会社はたくさんあります。中途採用者が多ければなおさらです。例えば佐藤部長(仮称)は売り上げが大切だといっているが、伊藤課長(仮称)は利益が何より大切だといっていると、メンバーは迷います。どっちを信じていいのかわからなくなる。この迷っている時間が生産性を大きく悪くするのです。

そしてさらに、「売上重視なら商品A、利益重視なら商品Bであることはわかっている、でも、どうしようかな・・・まあ、今回は佐藤部長が言うから、商品Aをやっておくか」といういい加減なやり方になってしまうのです。

つまり、経営理念がないために社員が迷います。ベクトルがあわないのです。判断基準がぶれているために社員が投げやりになります。そして、社員がついてこないのです。だから、しっかりとした考え、判断基準、つまり経営理念が必要となります。そうすれば社内がまとまり、経営がうまくいくようになるのです。でも、考え方、経営理念については、学校でも社会に出ても、誰も教えてくれない場合が多いのです。だから、多くの人は経営理念の重要性についての理解がなく、経営理念を軽視しがちです。しかし、組織をまとめてゆくには経営理念ほど重要なものはないといえます。

経営理念は経営をするためのツール、道具なのか?

経営理念を経営をするためのツール、道具のように考える人や会社がありますが、本質的には間違っているといえます。経営理念とは何のために経営をするのかといった本質的な考え方をまとめたものであり、経営を始めるにあたっての根幹です。

生きるためにパンを食べるのであって、パンを食べるために生きるのではありません。生きるという目的のために、パンを食べるという手段があり、パンを食べるという目的のために、生きるという手段があるわけではないのです。つまり、パンを食べるために生きるとなると、目的と手段が逆転してしまうのです。

同じように、経営理念を実現するために経営をするのであって、経営をうまくやるために経営理念をつくるのではありません。経営理念を実現するという目的のために、会社を経営をするという手段を使うのであって、会社経営をうまくやるという目的のために、経営理念をつくるという手段を使うのではありません。

ここでいう会社経営を「うまくやる」とは言葉をかえると、社員のモチベーションをあげて利益を出すであり、社外に経営理念を発信することでいい経営をしているように見せかける、となります。そこには何かあざとさを感じます。

経営とは、ロゴやデザインだけでよくなるものではありません。バブルの頃には、会社のロゴやキャッチフレーズをつくることがとても流行りました。しかし、それで会社がよくなったかと問われれば多くの疑問が残ります。ロゴやキャッチフレーズは会社を表現する一つの手段でしかありませんので、本質的に会社が成長することとは違います。一流の企業、本物の企業は経営理念の冊子つくりにパワーや時間を使うのではなく、経営理念の本質の部分に圧倒的な時間を使います。それはつまり、

何のために経営をするのか?
どういった判断基準で経営をするのか?
この経営を通じてなにを実現したいのか?
働くとは何か?
自分はどういった人生を歩きたいのか?

といった哲学的な内容です。そしてさらに、経営全般に関する考え方にも思考の範囲は広がります。

顧客の心理とはどういうものか?
価格の決定とはどうやるものなのか?
社員の気持ちをまとめるにはどうしたらいいのか?
この商品の果たしてきた役割はどういったものか?
これからどんな未来になりどんな生活がされるのか?

といったビジネスを通じた心理学や未来予想などです。より広く、より深い、哲学よりも優れた考え方を持つ必要があるのが経営者であり、その思想体系をまとめたものが経営理念といえるのです。

経営理念は社員のモチベーションをあげるためにあるのか?

経営理念は社員のモチベーションをあげるためにあるのか?

経営理念をつくったら、社員のモチベーションがあがってよかった、という声をよく聞きます。私の友人の会社が経営理念をつくって社員のモチベーションがあがったので、私の会社も経営理念をつくろうという人もいます。自社の社員のモチベーションが低いので、社員のモチベーションをあげるために経営理念をつくろうとなるのです。

しかし、これはどこか変な感じがします。経営理念をつくった結果、社員のモチベーションがあがるのであって、社員のモチベーションをあげるという目的のために、経営理念をつくるという手段があるのではないのです。経営理念をつくることを、社員のモチベーションをあげるための手段ととらえてしまうと、経営理念つくりがどこか表面的な浅いものになります。

経営理念をハッキリさせ、経営理念をつくるという行為は、本来は経営の目的をハッキリさせることであり、会社のありたい姿をハッキリさせることであり、判断の基準をハッキリさせる行為です。社長と社員が仕事とは何か、自分自身の役割は何かといったことを深く、真剣に考えることが自分自身の精神的な成長を促します。

また、経営理念をつくるプロセスで自分の考え方を整理し、修正してゆくことや、経営というものを通じて、仕事や人間というものをより深く考え、今まで見えなかったものに気づくことが人間的な成長となるのです。数年という長い時間がかかることではありますが、時間がかかるからこそ意味がある。大きな木がしっかりと根を張るのに時間がかかるように、自分の思想が深まるのにも時間がかかります。一日や二日で本物の経営理念ができるはずがありません。

さらに、経営理念をつくり働く人たちが考え方を共有することで、気持ちの上で同志となります。考え方を共有する者同士の所属感が出てきます。人は誰にでもどこかに所属したいという欲求があります。孤独でありたくないのです。家族や友人や会社という組織に気持ちの上でつながっていたいのです。経営理念がしっかりしているということは、自分がその組織に属しているという所属感を満たしてくれます。

こういった考えの人たちが集まる、こういった社会的意義がある組織に属しているという満足感が出てきます。官僚組織、一部上場企業、名門大学などの、よりブランドの高い組織であればであればなおさらです。経営理念がハッキリすれば、そこに所属する人たちの所属感を高め、孤独感を少なくすることになります。そのことは結果的にモチベーションをあげることになるのは間違いありません。

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