理念とは「こだわり」なのか?

私の友人が社長をしているIT企業の鈴木さん(仮名)が、私の勉強会に参加してくれたときの話です。勉強会、懇親会が終了した後の駅に向かう道で、たまたま鈴木さんと一緒になったときに話をしたら、来月から役員になるといいます。「それはよかった、がんばってくださいね」と言って別れようとしましたが、どうしても気になってしまって余計なことを言ってしまったのです。30代後半だという鈴木さん彼は青いスニーカーに、すり切れたジーパンを履き、よれよれのTシャツを着て、髭を生やし、髪もぼさぼさ。

一方、社長はいつもスーツをきちんと着てさっぱりした格好をしています。鈴木さんは人柄がいいのですが、やっぱりその服装が気になります。鈴木さんは勉強会の時も一番前に座って、熱心に学んでいました。一緒に歩いていても「とても勉強になりました。これからもがんばります」と素直な感じです。仕事は何をしているのかと彼に聞くと、「CTO」(chief technical officer:最高技術責任者)とのこと。いわゆるIT企業の技術のトップでした。技術者でもあり、だんだん社内で偉くなったので、人から注意をされなくなったのでしょう。

服装は経営理念の表われ?「いつも、そういう格好で仕事をしているのですか?」と聞くと、「はい」と答える。「なぜ、その恰好なのか?」と聞くと、とくに理由はないとのこと。

「ならば、その恰好はやめたほうがいい。あなたは来月から一社員ではなく会社を代表する役員になる。一個人としてではなく、たくさんの人に会社の役員として見られることになる。いまのままだと誤解をされる。もし、まったく同じ提案をあなたと、スーツを着た別の人から同時に受ければ、あなたでなくスーツを着た人に、きっと仕事は行く。ここはシリコンバレーではない。日本だ。すくなくとも日本ではそうなる確率がとても高い。この週末に、髪を切り、髭を剃り、新しいスーツとシャツとネクタイそして靴を買いに行くといい」という話をしました。

その後、鈴木さんがそうしたのなら彼の人生は変化をすると思います。彼自身の気持ちも変わり、家族や社員の見る目がきっと変わると思うのです。一番近くにいる奥さんから見ても、服装や髪形が一気に変わるわけですから、何か心の変化があったなと思うでしょう。社員から見ても、役員になってあの人は変わった、と思われるでしょう。そして、その視線や期待を受けて彼自身の行動も変わるはずです。

人は環境に左右される動物です。人は見ているものに似てくる。汚いものを見てだらしない格好をしていると、だらしない生活になります。でも、同じ人でもピシッとスーツを着ていれば気持ちもピシッと引き締まるものです。

もし鈴木さんが、私のアドバイスを軽く受け流してなにもしなかったのなら、それは彼の理念なのだと思います。人はこうしたらどうかとアドバイスを受けて、やらない場合があります。それは、本人が気づいていないかもしれませんが、本人の「こだわり」があるからです。「こだわり」とは考え方です。強い信念とまではいかないかもしれませんが、人から言われても変えないものです。誰にでもあるのかもしれません。

この「こだわり」が会社の風土をつくることがあります。「これが『経営理念』です」と高らかに掲げるものではないけれども、会社の中に明らかに存在する、ある「考え方」です。それは、会社の上層部の毎日の小さな判断や行動に出るのです。どこにも文字にはしていなけれども、全社員に影響を与えているものです。

「これがわが社の経営理念です」と額に入れて飾るよりも、もっと影響力の強いものなのかもしれません。「そんなスーツなんか着ていたらクリエイティブな仕事なんてできないよ」と思う方もいるかもしれません。たしかにそういう部分もあると思います。しかし、会社の上層部がよれよれのTシャツを着ている会社は、やはりそういう会社の風土になります。その会社の経営理念が「誠実」や「高品質の仕事」であっても社員が納得をしないでしょうし、社外からもどこかずれているとしか映らないでしょう。

こう考えると、「こだわり」というものは理念をつくり上げるといえます。人の頭の中にある「こだわり」という思考が、その人の行動に表われ、それが社風をつくり上げるからです。だから、「経営理念」と掲げるものは、社長や上層部の本心でなくてはいけないのです。本当に思っているものでなければいけないのです。言っていることとやっていることが違っていると、本人は気づかなくても周りが気づくからです。

社員や取引先、そしてお客様が、「あなたの会社は言行一致していない」と気づくのです。経営理念とは最後の最後は、その人の一挙手一投足に表われる生き様そのものといっていいのかもしれません。

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