株式会社ねぎしフードサービス 経営理念 インタビュー

坂上:まず会社名とお名前、事業内容、業績や会社の規模について伺わせてください。

根岸榮治社長(以後「根岸社長」と表記):
株式会社ねぎしフードサービス、根岸榮治です。
事業内容は牛タン専門店。それと共にお肉の定食をセット販売しております。平均単価は1,300円、2013年度での売上は54億円、経常利益で約3億円、利益率は6~7%になります。現在従業員は正社員が110名、アルバイトが890名程度で約1,000人です。

坂上:次に社長様のプロフィールをお伺いします。お歳やこれまでの経歴をお聞かせ下さい。ちなみに創業社長でいらっしゃいますよね。ゼロから作られたということで。

根岸社長:73歳、現在の会社は私がゼロから創業しております。福島県いわき市で時計屋を営む商店の長男として生まれ、商売を見ながら育ちました。高校までそこで育ち、大学から東京へ出て商学部で経済を学び、百貨店に就職しました。

坂上:実家が時計屋さんで経済を学ばれたということですが、時計や商売自体に興味はありましたか。他に学生時代に何か思い入れのあったことなどがあればお聞かせ下さい。

根岸社長:いえ普通の生徒で、特別なものは何もありませんでした。学部に関してもなんとなく選択したという感じで。大学の先生方の御紹介で東京の百貨店に勤め、呉服や自動車の販売を担当しました。8年ほど勤めた頃に、実家の時計屋の資金繰りがうまくいかず、倒産したため故郷に呼び戻され、生活のために融資を受けて実家を改装し、飲食店を起業しました。それが1970年のことです。当時30歳でした。

坂上:なぜ飲食だったんでしょうか。魚屋でも八百屋でも良かったと思いますが。

根岸社長:日銭を扱うので手っ取り早かったというのが一番ですが、きっかけはたまたま本屋で「月間食堂」という雑誌に興味を持ち、その中でセミナーの募集もあり、これはと思い東京でのセミナーに参加しました。それが年に数回ありまして、色々と勉強になりました。東京へ来て勉強し、来る度にそのセミナーだけではなく最低1泊、もしくは2泊して、当時東京で流行っている店を色々見て、地元へ戻っていたんです。

その縁で「月間食堂」の編集長からカレー専門店が今流行っているというアドバイスを頂きまして、それで単純にカレーやろうと思いました。当時一流の設計士の方も紹介してくれまして、そのカレー専門店で売上が爆発的に上がったんですよ。それでなんとか。

坂上:ちなみにお店の広さとか、単価とか年商ベースでいくとどのくらいでしたか。

根岸社長:今でいうと10億円くらいですかね。当時の月商で7~800万くらいか、それ以上だったと思います。25~6畳くらいのお店でした。カレーしかないのですが、それを徹底的に、とにかくカラフルで綺麗な店を作って営業しました。当時は生業店と家業店ばかりでチェーン店はなかったので、普通は月商200万とか4~500万くらいの時代でしたね。

坂上:ではカレー専門店から今の「ねぎし」さんに移ってくるのはどの辺りからですか。1981年で一つ線がある感じですが、その10年には何がありましたか。

根岸社長:1981年からは牛タンですね。それまで私自身が狩猟型経営で流行りものを追いかけていたのが、農耕型経営に変わっていきました。当時は仙台から水戸までの250kmの間に、ポツポツと20店舗位まで事業を拡大しましたが、業態の違うものを営業していた為に管理が出来なかった。人の管理と商品の磨き上げがどちらも出来ない。

オープン当初は一番良くても5~6年過ぎると競合店が出て、その時間がプラスに作用して磨き上がるならいいんですが、逆に劣化していった。人も商品もダメになっていった。そこで、これはいわゆる永続性にならない、どうしたらいいのかと。その時ちょうど雑誌か何かで、ランチェスターの簡単な専門書というか、そういう本を見まして、単純に三角商法とか、出店の仕方を集中するとか、そういうもので学びました。

その時点は仙台に事務所があって、仙台を中心に南の方に出店していました。東京で流行りの大皿料理とかを含めて、色々と東京で1号店という時にさっと持ってくる。それで東北で初めてという店をいっぱいやっていました。でもある時、全員いなくなるわけです。料理長から2番手3番手、それからホールのメンバー、そこに従うアルバイトが5~6人、そういう人たちが始める競合店にお客が付いて、そっくりそっちへ行っちゃうわけですよ。

そういう色々なきっかけがありましたが、基本的には100年企業に結びつくにはどうしたらいいかと考えました。それにはいわゆるこれからの商品を狙おうと、それで仙台ではそこそこ流行っていましたが、全国的にみるとまだこれからという商品である「牛タン」というものを知って、当時は完全に男性の酒のつまみだったものを、女性客も呼び込むため、厚い肉を薄くし、女性向けの店作りにするなど工夫しました。

一番の問題だったのはヘルシーな牛タンを食事化、定食化する為にどうするかということで、うちが初めてとろろを入れたんですね。それをセットで売ったわけです。それが1981年です。そういうコンセプトを組み立てて「ねぎし」が始まったんです。

坂上:それはご自身で全部考えられたんですか。

根岸社長:そうですね。もともと仙台には牛タンの元祖の店が別にあり、私は20件目位の中途参入でした。ですが、その為に女性向きのコンセプトにし、仙台ではなく一番市場性の熱い東京にしようと、そしてその中でもドミナント経営が出来る新宿を出店場所としたんです。

坂上:商品開発やコンセプト作りなど非常に戦略的ですが、経営理念はどこから出てきましたか。

根岸社長:もともと飲食のセミナーで東京へ行っていて、多い時は年に4~5回、最低でも3回。セミナーを日課の如く聞きに来て、それと共に勧められる本を読んで、そこからですね。

坂上:それから43年間社長業をされている。最初の10年があり、転換期の11年目、何か違う戦略があったと思いますが、現在のような経営理念を作ろうと思ったのはいつ頃ですか。

根岸社長:この前にも社訓というものはあり、半ば強制で合唱させていました。店舗が離れていて、何も共通するものないので。ただ、単に社訓を合唱させても結局一つも身にならない。まあ多少の枠というか牽制、拘束にはなりますが、実質は無かった。それを1995年くらいまでやって来たんですが、その時に中小企業家同友会に入会し、そこで経営指針書、年次計画を学びました。それと前後して経営理念というものをもう一度作り直して、現在のものにしたんです。

坂上:1995年が経営理念の大きなターニングポイントだという事ですね。それは誰か教えてくれる人がいたんですか、本とか人とか色々なきっかけがあった。

根岸社長:色々なセミナーで学びました。経営理念が非常に大切だという事、もう一つは、経営理念を具現化する仕組みが無いという事。普通に仕事をしながらの仕組みですね。ですので一つ一つ仕組みを作っていきました。

坂上:では1995年の時点では、今までの体験もありますが勉強し、自分の中に言葉が出来てきます。これを紙の形にするにはどの位の時間が掛かった感じですか。

根岸社長:色んなものをまとめて大分変わりましたが、この「ねぎし精神」が経営理念なんです。「ねぎしの思い」というのが経営目標なんですね。あとは「共にの誓い」ですね。こういうものを色々な集まりがある毎に、最初と最後に必ず合唱するんです。

要はこれらを具現化する為の仕組みがあるのかという事。だから一つ一つ仕組みを作り23年間ずっとやってきたわけです。それがある時からプラスになり、ある時期を過ぎると相乗的に掛け算になり形になっていった。人を成長させる道具、仕組みになったわけです。

坂上:では経営理念を作るきっかけは何でしたか。一番最初は社員が辞めるとかがあり、ご自身の中では経営計画書に出会い、戦略を作ると同時に理念に気が付いたという感じですか。

根岸社長:やはり同じ思い。例えば政治や宗教でも、強いのはみんな思いの同じ人達なんです、それが良い悪いでは無く組織としてブレない。それは起業以前から思ってました。うちの場合は、一度それが空中分解しました。それはトップそのものの問題だったと考えています。

それの真逆ではないですけど一つの理念のもとに戦略、戦術を明確にし、そして商品が明確になる。結局独自性のある商品を明確に出さないとお客さんが来ないと気がついた。まず食べ物屋ですから。誰もが分かる何屋っていうものが明確にあって、それがまず美味しくなきゃいけない。その中で今度はランチェスターですよね。とにかく自分の設定したところで断トツ№1にならないとお客さんは選んでくれない。

坂上:この1995年くらいだと従業員数は何人くらいですか、店舗数とか。

相良氏:当時で7店舗、従業員はバイトを含めて300人くらい、売り上げは9億円くらいですね。

坂上:その時に「思い」を作りこむ部分ですが、どなたがどのように作られましたか。

根岸社長:最初は私が作っていましたが、1991年から改革を開始してプロジェクトを始めました。当時のイトーヨーカドーを真似て、週一回は無理ですが月一回ならと全体会議を。うちは月一回全社員が集まり半年間実施してきた作業改善事例を6店舗づつ発表しています。みんな同一地域における同一業態ですから、発表した内容はいずれ我が事だと。だから興味を持ってみんなが聞くわけです。月一回で6店舗分、全部で33店舗ですので、年に2回は自分に順番が回ってくる。発表5分、質疑応答5分、1店舗10分で計60分。これがもう23年続いています。

坂上:なるほど。順番として経営理念の唱和があり、「経営の目的」、「ねぎしの思い」、「お客様は常に正しい」、その後で「ケーススタディー」の発表、「トラブルの報告」と。これが完全に会社全体の仕組みとして理念の共有化が図られている。サイクルに落とし込まれたと。

根岸社長:そこで今どの店で何に取り組んで、どういう事が起きているのかを情報共有します。次回に発表する店は、発表するまでの半年間、店長を中心にずっといい人間関係とチームワークがないとよい発表が出来ないわけです。それをやる過程に当人たちの人間的な成長、店長のリーダーシップ、他のメンバーの人間的な成長だけじゃなくて、いい人間関係が出来るわけですよ。それがチーム力アップになり、店舗力アップになるわけです。いわゆるねぎしの「5大商品」です。

坂上:「味、笑顔・元気、清潔、親切、楽しさ」。これを「5大商品」と呼ばれていますね。

根岸社長:これひとつひとつに仕組みがあるんですが、これが高いレベルで提供できるようになるとお客様は満足するわけです。ですから何か問題が起こったら解決するためにみんなで協力し、努力してその結果を発表します。その問題は改善されますよね。それだけじゃなくて、そのプロセスが人を成長させる。そのプロセスでいい人間関係が出来て、今度はお客さんの対応とか味の問題とかにすごくいい結果になって出てくるわけです。ですから店舗力アップになると。

坂上:でも一方でその話を聞くと、それは理念ではなくスキルじゃないか、もしくはQCではと思う人もいるかもしれません。そこが「ねぎしの精神」にある「思い8割、スキル2割」という言葉につながるんですか。

根岸社長:色々なスキルがあるんですが、それは全部思いがないといけないんですよ、思いがないと。では思いにはどうような共有徹底の仕組みがあるのかということになります。それは朝礼・夕礼とか会議等々で言うだけじゃなくて、その一端として「私と経営理念」を全社員や取引先などに年一回書いて提出してもらい、冊子にまとめて発行、配布しています。さらに全体会議の場で全員集まっている前でこれを読むんです。

坂上:そこに落とし込むことで浸透していくわけですね。これは最初から全体会議など、こういう風にやりたいと思ってらっしゃったんですか。他社事例も見てこれはいけると。

根岸社長:それは経営理念を共有徹底しないという思いがあり、全体会議は全員で理念を共有する場であり、確認する、価値を共有する、いろんな問題をみんなで共有する場にしたんです。なぜなら1店1店は数人なんですよ、社員は。だからみんなで集まって情報共有から始まり、理念共有、情報共有、みんなで確認し合うというか、認め合うという場が無いと一つの団体として成り立たないと。

あともう一つは、いちいち価値判断を求められても対応できないということです。絶えず24時間付きっきりなんてやりようがないわけです。では何で縛るんだと。

坂上:いかに企業統治するかという事ですよね。企業をちゃんとオペレーションするかというか。

根岸社長:理念を信じ込むと私たちは何のために仕事をしてるのかと、そして経営理念を明確に共有すると、社長とか上司に縛られるのではなくて経営理念を中心に動くんですよ、それぞれが価値判断しながら。それがいいわけですね。だから「私と経営理念」をやって、初めてそういう反応が返ってきた。迷う時は経営理念に戻るということが社員にも理解してもらえた。

坂上:「ねぎしの精神」を作るきっかけは、いつ、どのように社長の中から出てきたんですか。

根岸社長:色々なスーパーとか含めて飲食店とか、どういうのがいいのかなと参考に見ました。自分の思いにピタッと来ることが前提ですけど。基本いいとこ取りですね。ちょうど1994年の時に経営指針書策定のプロジェクトをやっていて、経営指針書の第一号を検討するときに経営理念を作らなくちゃいけない。でもそれは社長の仕事だと。

坂上:その時は50歳くらいですね。人間的にも色んな経験をされて、30歳の時とは同じものにならないと思いますが、最初はいいとこ取りしながら、練りこんでいった感じですか。またこの「私と経営理念」の発表は、最初からあったんですか、これはいつ頃からですか。

根岸社長:そうですね、あっちのやつを取り、こっちのやつを取りとして作りました。発表自体はそんなになってない。4~5年くらいになります。

坂上:ベースには経営理念があり、改善会議をずっとやりながら新しい取り組みとして追加でやって来たと。経営理念には懐疑的な経営者も多いのですが、それでは店を閉めて全員が来てしまうので生産性が下がらないのかという懸念もあると思いますがその点は。

根岸社長:会議は営業時間前の朝8時から10時の2時間で行っているので、その点は問題ないです。第二水曜日に固定で、近隣で会議室を借りて社員やバイト120名くらいでやっています。そこで発表以外にもクレンリネスコンテストや各種表彰など色々な事をやっています。

坂上:なるほど、社員の方にとってそんなに負荷が高いわけでもないんですね。商品とかエリア戦略も含めて、出店は基本的には23区中心とか決められているんですか。

根岸社長:東京と横浜だけですね。新宿から30分以内。それ以外は出さないです。

坂上:そうですか。あとはこの「思い8割、スキル2割」というのはどんな感じでしょうか。経営理念があり、ねぎしのミッションがあり、仕事の目的がある中で。

根岸社長:思い8割というのは、どんなにスキルを磨いても思いがあって初めて活きて来るということです。その思いを共有するというのが一番大切で、思いというのは経営理念とか、そういうものによってみんなが仕事をする、動かされるという事。誰かに言われてではなくて。

坂上:ビジョンの見える化というのも、この「ねぎしの富士山」という理想的な姿が書かれてありますが、この辺りは思いの部分とどういう風な位置付けになりますか。

根岸社長:見える化すると、非常に仕事が分かりやすく、やりやすい。全体像を見える化していくということが戦略・戦術も含めて、すごく大切なことだと思っています。その仕事を何のためにやっているのか、ということが分かる。これが経営理念の目的ですよね。

坂上:浸透させる上で大事なところなんですね。それが「ねぎしの思い」だと。

根岸社長:働く仲間の幸せというのは、「人の成長と100年企業」というのを定義付けています。働く仲間の幸せとは何ぞやというと、それは人の成長だと。それぞれの成長、そして企業が100年続くという事が私たちにとってすごく大切なことだと。この為の定義付けが必要で、次にその為の仕組みはどうかという事になるわけです。

例えばクレンリネスコンテストが年二回4月と10月の第三水曜日にあります。これだけは相対評価なんです。33店舗のうち何位かと。相対評価することで店舗間競争し、競争することで内部団結する。それぞれの店舗で店長中心にせざるを得ないわけです。店長は採用・面接・教育、時給アップと絶大な権限を持っている。そうすると何度教えても分からない店員は罵倒して叱りつける。それがお客さんに直接聞こえて苦情がきます。そういう店は絶えず従業員の定着率が悪くなり、そうすると「5大商品」のレベル、提供力が低くなるから、美味しくない、サービスの悪い物が出てくるわけですよ。

やはり定着率がいいっていうのは全てにおいていいものが出てくるわけですよ。そうすると、どうしたら定着率が良くなるのかという風になり、クレンリネスコンテストも定着率アップ、チーム力アップ、それから店舗力アップにつながります。そうすると店長はどうしても上から目線でやっていたんではダメなわけです。みんなに協力していただくという姿勢に変わらないと、使ってあげるじゃなくて協力してもらっているみたいな考えに店長が変わっていかないと下は気持ちよく付いて来ないですね。

絶えず上位の店舗は、店長がいなくても優勝するんです。片方は店長がいてもシャッキリしなくて下位なんです。ということは上位は全員が我が事に、下位は店長だけが我が事であとは他人事で協力しているんですよ。それがリーダーシップの違いなんですね。

坂上:ではお店の改善のための店長異動などはされますか。定期的に移動するとか。

根岸社長:そういう異動は基本的にないです。新たに出店すると誰かが昇格して自動的に変わっていくということはありますが。ただ5年以上経ったらなるべく替えるような努力はしています。今も年に2~3店舗の出店が絶えずありますから、その時に替わるだけですね。

坂上:その辺はどんなお考えなんですか。100年企業も含めて店舗を増やしていく感じですか。

根岸社長:年輪経営ですから年間10店舗20店舗出していくようなことはしません。うちは東京と横浜で最大でも60店以上は出さない、年商で約100億前後。それで十分と考えています。その代わり東京と横浜の中で圧倒的なトップのブランドを作って、そして肉の定食屋としてのインフラ、なくてはならない社会基盤になりたい。

「美味しい味づくりで楽しい街づくり」と謳っていますが、その地域に訪れる人も住んでいる人も、この地域に「ねぎし」があって良かったと思っていただける店でありたいと。その為には同一競争しても仕方がない、独自性のある品揃えと地域社会と深い関わりをもったメンバーで、その店、地域になくてはならない「ねぎし」でありたいと考えています。今後国では地方がどうのと言っていますが、でも結果的には一極集中、東京集中になると私は思っています。横浜を含めて、一都三県です。地方では成り立たないと。

坂上:そのとおり一極集中です。地方では100%無理ですね。それは間違いないです。

根岸社長:その中で、肉の定食屋として東京で圧倒的な№1ブランドを作って社会的なインフラになれば、これが「ねぎしのミッション」だという事で十分だと。そしてその中で一人一人がイキイキと自分の成長を図りながら仕事出来れば、人生を過ごせれば非常にいいなと。その時は誰かがやってくれるんじゃなくて、自らの人生は自ら作り出すと、だから自分の仕事も預かった店舗は自ら作ると。

「ねぎし」の経営指針書のPDCAは、プラン、ドゥー、"コミュニケーション"、アクションなんですよ、C=チェックじゃなくて。それを繰り返すわけですが、Pから参加というのがうちの原則なんです。自分でプランを立てて、実行して、改善していけということで。自分の店を預かったら店長は自分の人生、自分の仕事だから、自分で開拓し自分で作り出していくということなんですね。

坂上:経営者意識ですよね、まず。

根岸社長:売上も、客数も、あとどんな店にしたいかも、半年掛かりで店長らが作っていくわけです。第1回の全体会議が今月になりますが、第四木曜日に店長と本社スタッフ、四十数名以上が全員集まって、5~6人のグループを作ってソート分析から始まって会議を重ねています。そして来年の4月までに延べにして10回くらいですかね、店長らが集まって経営指針書を作り上げていきます。会議は4時間から丸1日の時もあります。

最後は4月に朝9時から夜の6時までやって、近所で打ち上げ会もやって、それを5月の第二月曜日に経営指針書発表会として外部の銀行や取引先を呼んで発表を行っています。そして全員の前で発表です。ただ売上とかじゃなく、店長プロジェクトが中心です。もう22年続いていますけど色んなチームがあって、色んな店の問題が起こるんですけれど、どこかのチームに当てはまるから、そのチームが全部解決するんです。

坂上:なるほど、クレンリネスもあれば、そういう店長プロジェクトというものがあると。

根岸社長:そういう過程、プロセスで人は成長しますから。店にいるとその店だけの話になりますが、プロジェクトに入ると会社全体の動き、ルール作りに入ることになる。つまり店長プロジェクトが「ねぎし」を全部動かしています。ですから会社の運営に対して、店長らが我が事になってやっているわけです。それが一つありますね。あと日々のオペレーションではエリアミーティングというものがありまして。第三木曜か金曜に4~5店舗、歩いて10分とか近所の店舗の店長が集まって、損益からクレーム対応から2時間くらい会議をやっています。

一般的に飲食店の店長には孤独感があります、すべてが自分に来ますから。ですがうちの場合は孤独感がない。何故ならエリアミーティングで一人が悩んでいる問題を出すと、後の3人、4人で解決する。孤独感で大変だというのであれば、一人の問題は他の店長らがみんなで解決してあげると。その過程でお互いに分かりあって裸になるわけですよ。

坂上:それも仕組みにされた訳ですね。話し合うという。店長から見ると月に何回くらいそういった会議体みたいなものがあるわけですか。

根岸社長:店長プロジェクトやその企画物もあるので、2時間くらいの会議を月4回です。

坂上:簡単に言うと週に1回はこうやってみんなで集まる機会があると。その仕組みを作り上げた事は大きいですね。孤独感が無いという意味でも。

根岸社長:問題が起こるとすべて自分で解決しなきゃならない、そんなの悩みますよね。人が辞めた、顧客トラブル、売り上げが予定通りいかない、材料が間に合わない、ロスが多いとか、みんな店長じゃないですか。これじゃやっていられないということになりますよね。

坂上:KPIというか、指標は何かありますか。売上や利益とか利益率とか顧客数とか、そういうものはどういう風にされているんですか。

相良氏:店長損益というのがありまして、それと毎週、毎週の売上の目標予算や客数予算。それに人時売上、1時間の1人当たりの売上という目標があります。あとはワークスケジュールで毎週数値を見ています。店長は毎日で、マネージャーが週に1回チェックしています。

坂上:顧客数に時間当たり単価。それは全てパソコン上で共有されている感じですね。では1年目から入って店長になるには何年目からとか決まりはありますか。

相良氏:100ステッププログラムというのがありまして。元々この店長プロジェクトの一番最初に人事評価制度、キャリアパスプランを作ったんです。こちらの表に100項目あって、入社するとトレーニーから始まって、これが3項目。これを月に1回、評価面談を受けながら進みます。個人ファイルで管理し、自分がどこまで行ったかというので時給も上がる仕組みになっています。

坂上:一般的には店長さんの労働時間や待遇は、業界平均と比較してどのくらいですか。

相良氏:店長は残業5~60時間を入れて実労で230時間、給与は600万円位です。まあよい方だと思います。

根岸社長:とりあえず店長になりますと31万円から始まって、42~43万円までいきます。店長のクラスも4段階に分かれていまして、ジュニア、ミドル、シニア、アドバンスドシニアマネージャーという4段階になっています。その1段階の中に5つの項目があるんですね。

坂上:5×4で20ステップくらいあるわけですね。店長で600万円位と。その後はエリアマネージャーになるとかそういうのがあるわけですか。なるほど。あと個人の価値観と経営理念という事もお聞きしているんですが。個人にもそれぞれいろんな考え方があって、経営理念と合う合わないがありますが、そのあたりは会社の中ではどんな風にされていますか、何か仕組みがあったりするんですか。

相良氏:割と対話を繰り返しますね、会議体やセルフアセスメントの場で。セルフアセスメントでは80項目のカテゴリーを作り、それを自己評価します。その良い点、悪い点をエリアミーティングなどで必ず対話しています。そこにはマネージャー以上のメンバーが、必ず一人は入ってコミュニケーションを図ります。そこでそれは来年の経営課題にしようとか、対話を通して課題を具体化しています。

坂上:最後に教えて頂きたいことがいくつかありまして。まず一つは経営理念の完成度や浸透度に点数をつけるとすると100点満点で何点でしょうか。今の社長のお考えで結構ですので。

根岸社長:経営理念はこれでいきたいですね、ずっと。だから完成度は100点に近い、と思って信じています。浸透度は合格点だとは思います。まあそうですね、80点くらいですかね。

坂上:もう1点ありまして、実は私が今ランチェスターについて一番強く言っている「論語とソロバン」という事なんですが、差別化・集中・№1というのがランチェスターの本質であると言い続けていますが、やはり理念、思いですね、社長の言葉ですけど思いがなければ実現していかないと、いくらこれを言ってもうまくいかない会社もあるんですよ。でも御社の場合は今54億円くらいの売り上げの中で、戦略と思いを持って非常にいい形になっています。社長の中でまず順番としては売り上げを立てる、事業、戦略が先にあったと思いますが、例えばここに100人の経営者がいて、戦略と理念について聞くと普通戦略が9で理念1みたいに思っている人が多い。この辺りについてはどうでしょうか。

根岸社長:トップの最大の仕事は事業選択の実行なんです。必ずやれば勝つという事業領域をどう見つけるか、出し物と市場ですね。まず食べて生きていかなきゃならないですから。自分にとって良い事業領域をどう見つけるかというのが第一ですね。今度はそれを活かすため、活かすだけじゃなくて継続、永続させる、100年企業は経営理念、思いですよね。ただ、どんなに優秀な素晴らしい思いがあっても、いまさら自分の事業領域じゃないに突然入るって言ってもとてもじゃないけど出来ないですよね。

第二に経営理念ですよ。100年企業が続く為、永続する為には何が必要かと。それが経営理念、思いなんですよ。どっちも人が絡みますから、その人を活かすのはやはり思いです。

坂上:最初の10年で色々手を広げて、経済的なところでも大変な思いがあって、やっぱりちゃんと食べなきゃダメなんだと、勝たなきゃダメなんだと。そこにやりながらさらに上に行くには経営理念が非常に大事だったとこんな感じで合ってますかね。いや、本当にありがとうございます。大変勉強になりました。今、離職率とかどんな感じですか。業界平均と比べて相当低いと思うんですけど。

根岸社長:業界平均では7割くらいですね。社員もアルバイトを入れて全部で。普通の所では良く一回転するっていいます。ですが平均すると7割とモノの本には書いてありますね。うちはそれが3割。社員については10%くらい。ですから、定着率はいいですね。あと親切賞っていうアンケートハガキがありまして。これが月に1200枚くらい来るんですよ、毎月33店舗から持ってくる。そしてここに本日輝いている人というものをお客様に書いてもらっています。

これに店員310名が書かれたんですよ。そしてみんなが素晴らしいと書かれたのが21店舗ありまして、書かれた人や店には食事券1000円を出すんですよ、みんな。書いて頂いたお客様にも毎月120名くらい500円券をプレゼントしています。

坂上:じゃあ、会社の方が30万円くらい払っているわけですね。それはいつ頃から。

相良氏:2002~3年くらいですね。

坂上:店長同士で飲みに行ったりというのは、年1回はあるとお聞きしましたが、それ以外でもあるんですか。あと店長のお休みや休日出勤などは。

相良氏:店長は週休2日で基本休日出勤はなし。曜日はバイトのシフト優先なので各自異なります。飲み会はほかにも、新店オープンの時には決起集会みたいなものをチームでやったりとか。そうですね、あとお誕生日会だったり、懇親会とか。

坂上:バイトの採用は今大変ですよね。だから人が辞めちゃう会社ほどさらに大変になってきますよね。求人広告費用とか。

相良氏:うちはヘルプ制度というのがあり、他の店舗にヘルプに行ってスタンプが5回集まると1000円の商品券を出していて、そういうものを積極的にやってくれています。何かあればエリアマネージャーが割と近いので、ぱっと駆けつける。

坂上:とにかく動くって駄目なんです。ほんとランチェスター戦争理論なので、むやみに動くことが本当に自滅させるんで。いま僕はそれを世の中に伝えているんですが、でもやっぱり理念も大事だと。やっぱり「論語とソロバン」で戦略だけだとやっぱりダメなんです。でも食べていかないと次には入れないので、仕組みをきちっと作って、続けていこうとすると今度は離反する人が出てくる。社長が経験されているように、ちょっと遠い距離にいてコミュニケーションないと不信感で辞めてしまって、誰もいなくなるみたいに。

でも根岸社長は素直でオープンな、ピュアなというか、そういう気持ちで乗り越えて学ぼうという意欲を相当持たれていたんじゃなかろうかなと思います。いろんな勉強会に出てこれだ、これだと。でもそうなる時期がすごく大事だと僕は思っていて。本人がこれでいいんだと頭の中がその理念だけになる。簡単に言うと思いこみなんです。間違っているかもしれない、でも自分で自分を洗脳するというか、これでいいんだと、みんなが反応してくれてこれでいいんだって、結局そういう事ですよね。

外から誰が何を言っても関係ない、俺たちはこれでやっていくんだと、食べていられるし、とこれが大事なところなんですよ。この実利、コインの裏表、車の両輪と僕は言っているんですが、結局これをもっていないと全然ダメなんですね。どこかで崩れてしまう。

相良氏:経営理念については2008年の時に店長らがずっと検討して、あと社員研修でもずっとやったんですね、みんなに意見出してもらって。それからすごい浸透したんです。

坂上:あぁ、じゃあそれがポイントの1個ですね。最初のコアは社長が100%、ステージが上がって9:1とかになって、8:2とか、で社員巻き込んでみんなでやっていくことで浸透した、とこんなイメージですね。素晴らしいですね。分かりました、本日はどうもありがとうございました。

ねぎし精神

経営理念
お客さまにおいしさを
お客さまにまごころを
ねぎしはお客さまのためにある
そして
お客さまの喜びを自分の喜びとして
親切と奉仕に努める

ねぎしの思い
「働く仲間の幸せ」
(人の成長・100年企業)
「日本のとろろ文化」に貢献する
おいしい味づくりで楽しい街づくり

共にの誓い

●共に学び、共に築き、共に進もう。そして、共に幸せになろう。

一、ねぎしは価値ある人生のために仕事を通して世の中のお役に立ち、
その仕事を通して自分を磨き高め、共に成長していくことのできる
職場環境を育みます。

一、エンパワーメント(=自ら考え行動できる力)を発揮し、
共に楽しく成長できる自由闊達な風土をつくります。

経営の目的(ねぎしの思い)

働く仲間の幸せ
(人の成長・100年企業)

「働く仲間の幸せ」と「顧客満足」を通して、
地域・社会、ビジネスパートナーから高い評価を受け、
永続的に業績も抜群に優れている
100年企業を目指します。

日本のとろろ文化に貢献する
日本古来の食文化である「とろろ」と「麦めし」のおいしさを広め、
伝承していくことを通して、
「日本のとろろ文化」と日本の農業に貢献します。

おいしい味づくりで楽しい街づくり

『牛たん・とろろ・麦めしなら「ねぎし!」』と思って頂けるねぎしの独自性のある健康的な商品を提供する事で、『地域や街にねぎしがあって良かった』と思われる店でありたい。
ひいては、楽しい街づくりにつながり、地域社会と共生します。

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